Eldar Djangirov(P)
Armando Gola(El-B, Ac-B)
Ludwig Afonso(Ds)
Chris Potter(Ts)3
Joe Locke(Vib)10
Rec. September 28-29, 2012, NY
(Motema Music MTM115)
アルメニア出身のティグラン・ハマシアン(1987年生まれ)やグルジア出身のベカ・ゴチアシュヴィリ(1996年生まれ)のように、近年は旧ソ連の若手ピアニストの台頭が目立っているのだが、その口火を切ったのがキルギス共和国出身のエルダー・ジャンギロフ(1987年生まれ)といってもいいだろう。2005年にリリースされた3枚目のリーダー作「Eldar Djangirov/Eldar」で初めて彼のプレイを耳にしたときは、異様なまでの指の速さに驚かされたものだ。その後は「Eldar/Daily Living(Live at The Blue Note)(06年)」「Eldar/Re-Imagination(07年)」「Eldar/Virtue(09年)」(各別頁あり)がリリースされているけれど、本作はその中の最高傑作「Virtue」と同じメンバーのアルマンド・ゴラ、ルドウィグ・アフォンソとのトリオなので大いに期待している。「Virtue」にはジョシュア・レッドマン、ニコラス・ペイトン等がゲスト参加していたけれど、こちらにもクリス・ポッターとジョー・ロックが1曲ずつ参加しているのにもそそられるね。今回からジャケットに名前をフルネーム表示しているのは、レコード会社が変わって心機一転という気持ちの表れなのかもしれない。
エルダー曲が6曲、レディオヘッドの「Morning Bell」、スタンダード系の「Somebody Loves Me」「What'll I Do」「No Moon At All」「Good Morning Heartache」で全11曲。
1曲目から高速の7拍子でガツンといっていて、しかも途中からは4ビートへとチェンジしているのだから嬉しくなってしまう。かつてのチック・コリアのアコースティック・バンドを彷彿とさせる、メンバー各人の能力が最大限に発揮されている演奏には早くもノックアウト。例によって速弾きを駆使しながら容赦なく弾きまくっているエルダーはもちろん、アンソニー・ジャクソンとジョン・パティトゥッチを足して2で割ったような感じのゴラのエレベも、デイヴ・ウェックルの影響が感じられるアフォンソのドラミングも聴き応えがたっぷりで、もうこの1曲だけでも買ったよかったという気になってしまう。またそういうイケイケな演奏だけではなく、2曲目のような優しい感じの曲調を用意しているのもいい塩梅。優しいといっても演奏自体はとてもリズミカルで、1曲目と同様の7拍子での小刻みなビートが心地いい。そして3曲目にはポッターが登場。最初の部分の5拍子以外は、いったい何拍子でやっているのか分からないほど拍子がコロコロと変化する曲調(かなりの難曲)の中、何の違和感もなくトリオに溶け込みながら、しかも相変わらずのアグレッシブなプレイで聴かせてくれるポッターがさすが。またそれ以上に凄まじいプレイをしているトリオの3人にも圧倒される。かと思うと4曲目はしっとりとした4ビートのバラードだったりして、勢いのあるテクニカルな演奏でその上手さを見せつけるだけではなく、こういう一休みできるような曲をちゃんと用意しているのにも好感が持てる。純粋な4ビート曲の6、7曲目でゴラはウッドを弾いているけれど、これがまたエレベと比べても遜色ないプレイをしているし、10曲目に参加しているロックもいい感じのプレイで楽しませてくれるね。この曲でのエルダーの、コリアへの傾倒ぶりもいい意味で微笑ましい。
それ以外の曲は割愛するけれど、どのような曲調のものであってもノリノリで楽しめるし(曲によっては手に汗握る興奮が味わえる)、非4ビートと4ビート曲の割合や、動と静のバランスも良好。今回はシンセ等を用いずに、アコピだけに統一したのも正解だね。また録音も全体的に音が軽めではあるものの悪くはない。ただし私が買ったCDが不良品なのか、あるいはトータルで73分も収録されている弊害なのか、6曲目のベースソロが終わってからの数か所で音がループしてしまい、先に進まなくなるのには参ってしまった。そんな欠点はあるものの(パソコンでは問題なくかかるということは、CDプレーヤーとの相性が悪いということか)、これだけ素晴らしい演奏をしているのだから、当然ながらの5つ星。エルダーは17~18歳で吹き込んだ「Eldar Djangirov/Eldar」の頃と比べると、とてつもない化け物に進化している。
評価☆☆☆☆☆ (☆最悪!、☆☆悪い、☆☆☆普通、☆☆☆☆良い、☆☆☆☆☆最高!)