Eliane Elias(P,Vo)
Marc Johnson(B)
Joey Baron(Ds)
Rec. 2007,NY (Somethin' Else TOCJ-68076)
今月(11月号)のスイング・ジャーナルのゴールドディスク選定品。ゴールドディスクはいかなる基準で選定されているのか、内容がともなっていないような作品もあったりするので、レコード会社側からなんらかのお金が出ているのはほぼ間違いないと思われる。なのでスイング・ジャーナルとしても一番力を入れているページだろうに、本作のイリアーヌ記事ともう1枚の選定品のアンドレア・パガーニ記事の右側ページ(153ページと155ページ)が思いっきり入れ代わっていて、これではレコード会社も踏んだり蹴ったりだろうなぁ。こうまで大きなミスは今まで見たことがないような気がするけれど、いかに商業誌に成り下がってしまったとはいえ、校正だけはシッカリとやっていただきたいものである。
さてイリアーヌだが、本作は久しぶりに古巣のサムシンエルスからのリリース。ビル・エヴァンス・トリオの最後のベーシストでイリアーヌの夫でもあるマーク・ジョンソンと、彼とはコンビを組む機会が多いジョーイ・バロンとのピアノトリオ編成で、ビル・エヴァンスをやっちゃおうという企画である。このメンバーだとエヴァンス派のピアニストのエンリコ・ピエラヌンツィの諸作品とついつい比較してみたくなってしまうけど、イリアーヌにはボーカルという武器もあるので、作品的には全く違うものに仕上がっているのだろう。個人的には彼女のぶっ飛びプレイが聴ける「Steps Ahead/Holding Together(別頁あり)」のようなアグレッシブでテンションの高い演奏を期待しているのだが、本作では楽曲がら必要以上にエヴァンスを意識してしまい、なかなかそうもいかないだろうな。
エヴァンス曲や彼にゆかりのある曲を中心に全18曲(ボーナス・トラック含む)。1曲の演奏時間は3分半平均と短めだ。
インスト曲とボーカル曲がバランスよく配列されている。始めよければ全てよしって感じで、わたし的にはもう1曲目の「貴女と夜と音楽と」からしてもうノックアウトですわ。いやぁ、このアルバムは実にいいねぇ。さすがにイリアーヌだけあって、たとえエヴァンスがテーマであろうとも、そんじょそこらのピアニストのようにただ単に甘口なだけではないんだよね。そもそもエヴァンス自体がかなりアグレッシブな面を持っている(内省的なピアノなのでそう聴こえないだけ)と思うのだが、いわゆるエヴァンス派のピアニストはどうも上辺だけの甘さというかリリカルな部分だけを強調したがるんだなぁ。その点がどうも好きになれない。ところがイリアーヌは、エヴァンス以外にもハンコックのようなアウトするピアニストも吸収して自分のものにしている人なので、TPOに応じていかようにもスタイルを変えることができる。その緩急のバランス感覚が素晴らしいと思う。とはいえ本作に関しては想像していたとおり、楽曲的にはしっとりと落ち着いた曲調のものが多めだけどね。それでもあるときはベースとボーカルだけのデュオにしてみたり、またあるときはピアノだけの弾き語りにしてみたりと手を変え品を変えいろいろ工夫しているので、聴いてて決して飽きることはない。
エヴァンスのトリビュートものとして、これほど素晴らしい作品は今まで聴いたことがないような気がするなぁ。イリアーヌのピアノの表現力も色艶のあるボーカルも申し分なし。共演者のジョンソンとバロンも控え目ながらも実にいい仕事をしているね。
「ワルツ・フォー・デビィ」等に歌詞を付けてみたり、17曲目でエヴァンス本人の未発表(と思われる)ソロに自分の弾き語りを付け加えるというアイデアはなかなかのもの。また録音の良さも上々で、特に包み込まれるようなボーカルの温かさがなんともたまらない。イリアーヌの久々の会心作。まさにゴールドディスクにふさわしい作品ですな。きっと筋金入りのエヴァンス・ファンでも満足するのではないかと思う。
評価☆☆☆☆ (☆最悪!、☆☆悪い、☆☆☆普通、☆☆☆☆良い、☆☆☆☆☆最高!)