Antonio Sanchez (Ds, Key, Electronics, Voice)
Rec. October 20-21, 2016, NY
(Cam Jazz CAMJ7919)
ソロドラム系のアルバムを買うのはマックス・ローチの「Max Roach / Drums Unlimited(66年)」(限りなきドラム)や、「森山威男パーカッション・アンサンブル(76年?)」以来ということになるのかな。どれだけドラム好きであっても、ソロ作品にはなかなか手を出せないでいる。なのでアントニオ・サンチェスのサントラ盤「Antonio Sanchez / Birdman(15年)」も買わず仕舞いだったのだが、本作はCam Jazzからのリリースだし、サンチェスのFacebookを見ているとある人に対する怒りを表現しているような感じなので(それだけではないと思うけど)、興味津々買ってみた。
全10曲がサンチェスのオリジナル。
ドラムスの他にオーバーダブでキーボード等も入っているので(打ち込みを先に録音しているような感じ)、ソロドラムという印象はそんなには受けないのだが、そんな中でのロック調のビートを刻みながらのドラミングにはサンチェスの技がふんだんに盛り込まれていて、ドラム好きにとってはたまらないものがある。逆に言うと、そんなにドラムに興味がない人にとっては、全部の曲が終わるまでは苦痛の時間となってしまいそうだけど、そんなこともお構いなしにこのような作品を作ったということは、それだけ世の中に対して不満を抱いているからなのだろう。ミュージシャンが不満や怒りを表現する場は音楽しかないのでこんなのもありだとは思うけど、雑念が入ってしまったのか、音楽的に綺麗に纏めようとしている傾向も見受けられるので、どうせやるのなら長尺ドラムソロの曲も取り入れるなりして、もっとガツンとやって欲しかった。その方がサンチェスらしくていいと思うのだが、同じくソロアルバムを作っているマーク・ジュリアナのことも意識してしまったようで、結果的には中途半端に終わってしまったような印象を受けるのが残念。でも本人にしてみれば本作をレコーディングしたことによって日頃のうっぷんはだいぶ晴らせたと思うので、これでよしとしておこう。楽曲的には本格的なソロ仕立て(バックにシンセの持続音が流れてはいるけれど)となっている6曲目「Momentum」が大いに気に入った。ある意味テリー・ボジオのソロ演奏にも通じるストーリー性が感じられるソロの構築が実にカッコいいね。それと完全ドラムソロ(シンセの効果音や、後半にはヴォイスも入っているが)の10曲目「Amtisocial」も唯一の4ビート演奏で、そのドラミングの凄まじさを見せつけてくれる。
以前よりは参加アルバムが減っている感のあるサンチェスだけど、他の人が叩いているアルバムの中には、「これでドラムがサンチェスだったらもっと良かっただろうなぁ」と思うのがいっぱいあるので、これまでのようにジャズのトップドラマーとして精力的に活動することを願っている。その転機となるであろう本作は演奏のみならず、録音(エンジニアはサンチェス本人)もまたドラムスという楽器の魅力を十分に捉えていて上々。何曲目だかでスネアをパンポット(もしくは数台のスネアを用いながらの人力音移動)させているあたりも、「Billy Cobham/Crosswinds(74年、別頁あり)」でのコブハムのジェットマシーンを用いながらのソロを源流とするような、いかにもドラマーらしい発想でニヤリとするし、場面によっては音がスピーカーから飛び出して、左右の耳元や頭上にまで回り込んでくるサラウンド効果も楽しめる。
評価☆☆☆☆ (☆最悪!、☆☆悪い、☆☆☆普通、☆☆☆☆良い、☆☆☆☆☆最高!)
評価☆☆☆☆ (☆最悪!、☆☆悪い、☆☆☆普通、☆☆☆☆良い、☆☆☆☆☆最高!)