Kenny Garrett / Pushing The World Away

Kenny Garrett(As, Ss, Chant, P)
Benito Gonzalez(P, Chant)1,2,3,5,6,7,9,12
Vernell Brown(P)4,8,11,12
Corcoran Holt(B)1~12
Marcus Baylor(Ds)1,2,3,5,6,9,12
McClenty Hunter(Ds, Vo)4,6,7,10,12
Mark Whitfield, Jr.(Ds)8,11,12
Rudy Bird(Per, Cymbals, Gong)3,5,6,8,9
Ravi Best(Tp)3
Jean Baylor(Vo)9
Carolin Pook(Vln), Jen Herman(Viola), Brian Sanders(Cello)10
Rec. 2013?, NY
(Mack Avenue MAC1078)

ロナルド・ブルーナーJr入の前作「Kenny Garrett / Seeds From The Underground(12年、別頁あり)」がなかなか良かったケニー・ギャレットだけど、本作にはドラマーが3人も参加しているので、はたして統一感がきちんととれているのか気になるところ。特にマーカス・ベイラーはイエロージャケッツ(「Bob Mintzer Big Band/Old School:New Lessons(06年)」「Yellowjackets/Twenty Five(06年)」「Yellowjackets featuring Mike Stern/Lifecycle(08年)」各別頁あり)でのフュージョン系のドラミングしか聴いたことがないので、少々異質な感じがする。でもギャレットもフュージョン寄りの演奏をしているときがあるので、そんなに気にする必要はないのかもしれない。もし本作がそっち路線のアルバムだとすると、「Jared Gold/Supersonic(10年)」「Eric Reed / The Dancing Monk(11年)」「Jim Snidero / Interface(11年)」「Stan Killian / Unified(11年)」(各別頁あり)で耳にしているマクレンティ・ハンターや、2011年の南郷ジャズフェスの寺久保エレナ・カルテットで生で見たことがあるマーク・ホイットフィールドJrの方が逆に浮いてしまっている可能性があるのだが(正統的なジャズ・ドラマーのイメージが強いので)、ギャレットがこっち路線でやっている音楽はもろフュージョンではなく、8ビートや16ビートを取り入れながらのブラック・ミュージックのはずなので、きっと大丈夫だろう。他のメンバーのベニート・ゴンザレスは過去2作品から引き続きの参加。またパーカッションのルディ・バードも「Seeds From The Underground」に参加していたね。もう一人のピアニストのヴァーネル・ブラウンはこれが初聴き。ベースのコーコラン・ホルトは名前は記憶にないけれど、「Steve Turre/Delicious and Delightful(10年、別頁あり)」「Steve Turre / Woody's Delight(12年、別頁あり)」や上記「Stan Killian / Unified」に参加しているのが見つかった。

ギャレット曲が9曲と、バカラックの「I Say A Little Prayer」、ドナルド・ブラウンの「Homma San」、スティングの「Brother Brown」で全12曲。
予想に反して1曲目「A Side Order of Hijiki」からアップテンポな4ビートでガンガン攻めている。なのでベイラーが本格的なジャズ・ドラミングをしているをしているのには驚かされるのだが、元々がジャズ屋だったということなのだろう。2曲目「Hey, Chick」以降も曲によってはジェフ・ワッツかと勘違いしてしまうほどのアグレッシブなドラミングで容赦なくいっていて実にいい塩梅。正直言ってここまで叩ける人だとは思ってもみなかった。またハンターやホイットフィールドJrもそれには負けじとフルパワーかつスピーディーに叩きまくっているのだから、ドラマー好きとしてはこんなに嬉しいことはない。そんなアグレッシブな4ビート演奏をメインとして、ゴンザレスやバードの特性を活かしながらのラテン・ジャズをバランスよく挟み込まれている。聴きどころはなんといってもギャレットの熱いプレイで、2001年の南郷ジャズフェスで見たケニー・ギャレット&チャーネット・モフェット・カルテットでの、着ているシャツが汗でびしょびしょになるほどの熱演が脳裏によみがえる。最近のアルト奏者ではミゲル・ゼノン、デヴィッド・ビニー、フレンチェスコ・カフィーソ、ペリコ・サンビートあたりがお気に入りだけど、やはりギャレットは格が違うって感じだね。コルトレーン直系なので当然だけど、彼らのようにどこか醒めているのとは違って、仮に落ち着いた曲調のものであったとしても情熱的なプレイをしているので、どんどん引き込まれてしまう。また女房役を務めているゴンザレスも、ラテン的な部分とマッコイ・タイナー的なモーダルな要素の二面性を見せながら、これ以上はないと思わせるほどの最高の仕事をしているのだから、ここ何年かギャレットが彼を放したがらないのも当然だろう。それともう一人のピアニストのブラウンも、いちいちクレジットを見ないとどちらが弾いているのか分からないほどに優秀で、そのモーダルさが滅茶苦茶カッコいい。オリジナルが中心の楽曲はどれもがみんないいのだが、中でももろコルトレーン的な8曲目「Pushing The World Away」が印象的。部分的に南無妙法蓮華経と唱えながらの、「至上の愛」の仏教版といった感じの演奏だけど、5/4拍子のモーダルな曲調の中、次第に高揚していくギャレットのソプラノと、ドラミングは比較的ワンパターンではあるものの、終始プッシュし続けているホイットフィールドJrがたまらなくカッコいい。同じような東洋的な演奏は、中国をテーマにした「Kenny Garrett/Beyond The Wall(06年、別頁あり)」でもすでにやっているけれど、本演奏の方がメンバーは小粒ではあるも強靭さを増しているような印象を受ける。またこういうハードな曲があるからこそ、続く女性ヴォーカル入りの9曲目「Hamma San」や、ストリングス入りのバラードの10曲目「Brother Brown」も活きてくるのだが、その10曲目でギャレットはピアノを弾いていて、それがまた異様に上手いのだから驚いてしまう。アップテンポの4ビート基調の11曲目「Alpha Man」も聴き応えがたっぷりだし、ラストの12曲目「Patation」での、2人のピアニストと3人のドラマーが集結しての、非常に迫力のある演奏にもノックアウトされてしまった。
ということで本作は文句なしの5つ星。ジョー・ファーラがエンジニアなので、録音もバッチリ良い音で録れてるね。

評価☆☆☆☆☆ (☆最悪!、☆☆悪い、☆☆☆普通、☆☆☆☆良い、☆☆☆☆☆最高!)