Dave Holland / Prism

Dave Holland(B)
Craig Taborn(P, Rhodes)
Kevin Eubanks(G)
Eric Harland(Ds)
Rec. August 9-10, 2012, NYC
(Dare2 Records DR2-007)

デイヴ・ホランドがエリック・ハーランドと共演するのは、「Dave Holland Sextet/Pass It On(08年、別頁あり)」「The Monterey Quartet/Live at the 2007 M.J.F(09年、別頁あり)」以来ということになるのかな。わたし的にはもうそれだけでも期待に胸が膨らむのだが、本作にはホーン奏者が一人も参加していないのは、昨今のホランド・バンドの流れとは異なっていて興味深いところ。「Kevin Eubanks / Zen Food(10年、別頁あり)」「Kevin Eubanks / The Messenger(12年、別頁あり)」で第一線に返り咲いた感があるケヴィン・ユーバンクスと、最近は「Craig Taborn / Avenging Angel(11年)」「Chris Potter / The Sirens(13年、別頁あり)」「Craig Taborn Trio / Chants(13年、別頁あり)」とECMへの吹き込みが増えているものの、やっぱりクリス・ポッター・アンダーグラウンドでのプレイの方が素敵なクレイグ・タボーンとで、はたしてどういうことになっているのか楽しみだ。

ホランド曲が2曲、タボーン曲が2曲、ユーバンクス曲が3曲、ハーランド曲が2曲で全9曲。
ユーバンクス曲の1曲目「The Watcher」は思いっきりのロック調。デスメタル的とでもいうか、おどろおどろしいリフが印象的だけど、途中からはホランド・バンドに付きものの変拍子も登場してきたりして、滅茶苦茶カッコいいことになっているね。タボーンもユーバンクスもこれでもかというぐらいにギンギンなアドリブをとっているし、ハーランドのドラミングも非常に攻撃的で、早くもノックアウトされる。ホランド曲の2曲目「The Empty Chair(For Clare)」は打って変わってゆったりとした曲調。このバンドにとってのバラード的な扱いの曲だと思うけど、この曲もまたビートが効いていて実にいい塩梅。そんな中ホランドが骨太なソロで聴かせてくれるし、ユーバンクスの縦横無尽に弾いていながらもブルース・フィーリングがたっぷりのアドリブもたまらまくカッコいい。1曲目もそうだけど、ここまでギンギンに弾きまくっているユーバンクスはこれまで経験したことがなかったので、いい意味で別人が弾いているのかと思ってしまう。タボーン曲の3曲目「Spirals」は変拍子基調(アドリブ部分は普通の拍子に変えている)。路線的にはこれまでのホランド・バンドとも大きくは変わらないと思うけど、途中で出現するフリーな部分が演奏上のいいアクセントとなっているね。タボーンがフリー方面にも興味を示していることはECM作品でも顕著だけど、ホランドがやっているのは80年代以降あまりお目にかかっていないので、ほんのわずかの時間ではあるけれど、こういうフリー演奏が聴けて嬉しい。ハーランド曲の4曲目「Choir」は、フュージョン的な16ビートと4ビートの複合曲。いかにもドラマーが作曲しそうな感じのリズミカルな曲調とメジャーなコード進行が身体に心地いい。このメンバーでやるのだったら、もっと複雑な部分があってもよさそうな気もするけれど、そういう曲ばかりが続いていると聴き疲れする恐れもあるので、やはりこれぐらいでちょうどいいのかもしれない。
この後にユーバンクス、ホランド、タボーン、ユーバンクス、ハーランド曲と続いていくのだが、どの曲をとっても作曲者の個性がきちんと表れていながらも、予めホランドのバンドを想定して作られている(と思われる)ので、楽曲には統一感があるし、演奏もさすがにこのメンバーだけあって非常に聴き応えがある。ただしこれまでのホーン奏者入りのバンドの方が基本ピアノレス(ヴァイブが加わってはいたが)なので自由度が高かったし、もっと熱い演奏をしていたような気がしないでもないけどね。でもピアノの他にギターまで参加しているこの新バンドも新鮮味が感じられて、私としては大いに気に入った。1曲目のインパクトが強すぎるためか、2曲目以降は少々盛り上がりに欠けるような感じがするし、ジェームス・ファーバー担当の録音も、ホランドのベースがいつもよりも柔らかめの音色で録れていて、場面によっては他の楽器に埋もれてしまっているのがイマイチ気に入らないけれど、これはオマケして5つ星にしておこう。

評価☆☆☆☆☆ (☆最悪!、☆☆悪い、☆☆☆普通、☆☆☆☆良い、☆☆☆☆☆最高!)