Antonio Farao American Quartet / Evan

Antonio Farao(P)
Ira Coleman(B)
Jack DeJohnette(Ds)
Joe Lovano(Ts, Ss)
Judi Silvano(Vo)2,5
Rec. March 2013, NY
(P-Vine PCD93744)

アントニオ・ファラオがジャック・ディジョネットと共演するのは「Antonio Farao / Thorn(00年)」以来なので、もうそれだけでもワクワクする。とはいえ長男ドミニクに捧げて制作された前作「Antonio Farao / Domi(11年、別頁あり)」と同様、本作もまた次男のエヴァンに捧げたアルバムのようなので、過度に愛情に満ち溢れた演奏になっていないといいけどね。私がファラオに望んでいるのはハービー・ハンコックばりにアウトしまくるようなシリアスかつアグレッシブな演奏なので、そっち系の曲が多く収録されていると嬉しいし、メンバー的にもそういう演奏の方がよくマッチするのではと思う。

ファラオ曲が7曲と、A. Trovajoliの「Roma Nun Fa La Stupida Stasera」、コルトレーンの「Giant Steps」で全9曲。
1曲目「Another Way」は望んでいたような硬派な演奏。アイラ・コールマンが定型ベースラインを繰り出しながらのモーダルな曲調(非4ビート)の中、アドリブ一番手のジョー・ロヴァーノがなかなかアグレッシブなプレイをしているし、ファラオもギンギンにアウトしまくっていて実にいいね。ディジョネットの弾けっぷりはイマイチだけど、いかにもこのメンバーらしい演奏で、もうこの1曲だけでも買ってよかったという気になってしまう。2曲目「Evan」はジュディ・シルヴァーノのヴォイス入り。ピアノのイントロ部分がPMGの「想い出のサン・ロレンツォ」を連想する非4ビート曲だけど、ヴォイスが入っていても、またロヴァーノがソプラノを吹いていても、変に甘口な演奏にはなっていないのがこれまたいい塩梅。ディジョネットのドラミングはアイデア不足のような気がしないでもないものの、その代わりにコールマンがいい感じのソロで聴かせてくれる。3曲目「So Near」は4ビート。1曲目もそうだけど、アドリブにおけるロヴァーノのウネウネ感とファラオの疾走感の対比が面白いね。ファラオに合うテナー奏者はブレッカー・タイプの人だと思うのだが(「Antonio Farao / Far Out(03年)」にはボブ・バーグが参加していた)、そこをあえて系統の違うロヴァーノとやっているのがミスマッチの妙に繋がっている。ただしこの曲もまたディジョネットが叩き足りないのは気になるところ。他の曲もそうだけど、本作でのプレイはなんとなく元気がない(アドリブ奏者に対する絡みも少ない)ように感じられる。4曲目「Per Caso」はワルツ曲(4ビート)。ロヴァーノ抜きのピアノトリオだけで綺麗な旋律をしっとりと歌い上げているのが、いかにも子供に捧げた曲といった感じでベタではあるけれど悪くはない。5曲目「Riflessioni」はまたシルヴァーノのヴォイス入り。ゆったりとした感じの6/4拍子(非4ビート)の中、単にテーマを延々と繰り返しているだけなので、何らかの変化が欲しくなってしまう。6曲目「Roma Nun Fa La Stupida Staser」はボサノバ・タッチの8ビート曲。ロヴァーノの軽快なソプラノが心地いいし、ファラオのプレイにも好感が持てる。7曲目は「Giant Steps」だけど、テーマ隠しにしているし、ミディアムテンポでやっているので、ぼやっと聴いているとこの曲だとは気づかないのがいい意味で憎たらしい。中間部では初めてディジョネットがソロを取っているけれど、ドラムソロに関してはそんなに悪くはないね。その後のロヴァーノのアドリブ部分でのバッキングもそれなりにアグレッシブで、ここにきてようやく調子が上がってきたような印象を受ける。
残りの曲は割愛するけれど、楽曲としては5曲目以外の全てに共感できるというのに、演奏がイマイチしっくりこないのは、ディジョネットが6曲目までは演奏に完全には入り込めていないように感じられるから。なので私としては7曲目以降の方が、アグレッシブな演奏が連続していることもあって、ノリノリで楽しむことができた。

評価☆☆☆☆ (☆最悪!、☆☆悪い、☆☆☆普通、☆☆☆☆良い、☆☆☆☆☆最高!)