Yelena Eckemoff Trio / Glass Song

Yelena Eckemoff(P)
Arild Andersen(B)
Peter Erskine(Ds, Per)
Rec. March 16-17, 2012, LA
(Yelena Music L&H cd80615118)

ピーター・アースキン買い。リーダーの女流ピアニスト、エレーナ・エケモフ(モスクワ出身)はこれが初聴きだけど、自主レーベルであるYelena Musicのサイトを見るとクラシカル(かな?)な作品も含めて、これまでに19枚のアルバムをリリースしているんだね。ドラムス入りのジャズ作品は2006年の「Yelena Eckemoff / The Call」以降のようで、本作が8枚目にあたるのだが、その中の「Yelena Eckemoff / Cold Sun(10年)」「Yelena Eckemoff / Flying Steps(10年)」にもアースキンが参加しているのを今知った。過去作品には他にもマッズ・ヴィンディングやモーテン・ルンドといったそそられる面々が参加しているのだが、本作のベースはECM以外で弾いているのには出会える機会の少ないアリルド・アンデルセン(わたし的には「Carsten Dahl, Arild Andersen, Jon Christensen / Space is the Place(12年、別頁あり)」以来)が担当しているのが興味深い。

エケモフのオリジナルだけで全10曲。
アンデルセンが参加していることも関係してか、ECMの肌触りによく似たサウンドとなっている。非4ビートが中心の繊細で静寂感の漂う演奏は、ECMからのアースキンのリーダー作「Peter Erskine / You Never know(93年)」「同 / Time Being(94年)」「同 / As It Is(96年)」「同 / Juni(99年)」あたりとも共通するのだが、キース・ジャレットや彼のスタイルを継承しているヨーロッパのピアニストたちからの影響が感じられるエケモフのピアノに、アンデルセンとアースキンが有機的に絡み合っている演奏は、どの曲もそれなりにはいい感じで聴かせてくれるものの、これでもかというぐらいに似たような静的な曲が続いてしまっているし、トータルで約73分もあるので、私としては途中で退屈してしまう。おそらくこういう演奏だろうということは聴く前から予想していて、久しぶりにアースキンのサイレントなドラミングを楽しむ態勢ではいたのだが、ちゃんとスネアやバスドラを叩いている曲は4ビートの5曲目(ドラムソロもあり)等ごくわずかで、他は味付け程度にシンバルを叩いているだけの場面がほとんどなので、曲調がらそうせざるを得ないとしても、これではいくらなんでも物足りない。その代わりにアンデルセンが、エケモフのプレイに対してゲイリー・ピーコックばりの反応のよさを見せているので、かろうじて最後まで緊張の糸を切らさずに聴くことはできるけど、できれば半分ぐらいの曲は動的な演奏、あるいは静的な曲であったとしても曲中内でダイナミックな展開を見せてほしかった。でもクラシックにも精通していると思われるエケモフにしてみると、ベースとドラムスのピアノトリオでこのようなジャズをやること自体がチャレンジなのかも。曲作りに関してもテクニカルな面においてもいいものを持っているので、これで動的な演奏もできる感覚を身に付けるとさらによくなると思うのだが、けっこう年齢はいってそうな感じなので、これ以上に音楽性の幅を広げるのは無理なのかもしれない。
ということで演奏は静的な曲が続いているので共感できないのだが、録音は各楽器が優しいタッチながらも骨格はしっかりしているし、音にも深みがあって実にいいね。特にベースと下に沈み込むようなバスドラの音は特筆もの。本作はこの音の良さだけでも楽しめるといったところがある。

評価☆☆☆ (☆最悪!、☆☆悪い、☆☆☆普通、☆☆☆☆良い、☆☆☆☆☆最高!)