Alex Sipiagin / Overlooking Moments

Alex Sipiagin(Tp, Flh)
Chris Potter(Ts, Ss)
Scott Colley(B)
Eric Harland(Ds)
Rec. October 15, 2012, NY
(Criss Cross 1354)

前作「Alex Sipiagin / Destinations Unknown(11年、別頁あり)」が最高に良かったアレックス・シピアギン(シピアジン?)だけど、本作もまた前作から引き続きのメンバーであるクリス・ポッター、エリック・ハーランドに加えて、スコット・コリーまでもが参加しているのだから大いにそそられる。あえてコード楽器レス編成にして、はたしてどれだけ凄いことになっているのか楽しみなのだが、シピアギンの過去盤にはピアノあるいはギターが必ず参加しているだけに、きっと彼としても新たな挑戦なのだろう。そのヒントはピアノレスが基本のデイヴ・ホランドのバンドや、シピアギンとも共演する機会の多いアントニオ・サンチェスの「Antonio Sanchez / Live in New York: at Jazz Standard(10年、別頁あり)」あたりにあったのかもしれない。

シピアギン曲が4曲、ポッター曲が1曲、コリー曲が2曲、Monday満ちるの「First Step」で全8曲。
コード楽器レスならではの縛りの少ない演奏が繰り広げられているのだが、それでいながらバンドとしてもきちんと統制がとれているのが素敵だね。その演奏はホランドのバンドを意識しているようだけど、コリーのベースを土台としてシピアギン、ポッター、ハーランドがダイナミックな展開をみせているのが実にいい塩梅。ポッターが凄いのは今更いうまでもないとして、それと互角に対抗できているシピアギンもさすがに大したもの。2人ともスピーディーなプレイで攻めまくっている。またハーランドも尽きることのないアイデアとテクニックで楽しませてくれるし(ソロもたっぷり用意されている)、もちろんコリーもソロではガツンといっているので、弾き足りないと感じることはない。各人とも自分の持ち味をきちんと発揮できているので、手放しで喜びたいところではあるのだが、全体的に似たような雰囲気の楽曲が続いてしまっているのは気になるところ。曲調がダークかつモーダルなのは私の好みともバッチリなのでいいとして、リズムあるいはテンポ的な変化はもう少し欲しかった。それとせっかくのコード楽器レスなのだから、もっと羽目を外すような部分があってもよかったような気もするけどね。本演奏を聴いていると、なんとなく知性の方が勝っているように感じてしまう。まあ曲調の範囲内では充分にアグレッシブなのでこれでよしとしておくけれど、これだけのメンバーが揃っているのだから、ギャフンと言わせるぐらいの演奏をして欲しかった。もしかするとドラマーがコリーと相性バッチリのサンチェスだと、また一味違った演奏になっていたかもね。でもそれだと過去盤でもやっていることなので、やはりハーランドで正解なのだろう。
そんな演奏には概ね共感できるのだが、録音的にドラムスの音にハーランドらしさが感じられないのと(特にトップシンバルはシンシンしすぎ)、コリーのベースも強靭に録れていないのが残念。エンジニア、ミキシング、マスタリング共にマイケル・マルシアーノが担当しているけれど、Criss Cross録音はだいたいこういう感じとはいえ、できることならもっと「らしい」音で録って欲しかった。本作にイマイチのめり込めないのは、この音質も関係している。

評価☆☆☆☆ (☆最悪!、☆☆悪い、☆☆☆普通、☆☆☆☆良い、☆☆☆☆☆最高!)