Ralph Bowen / Total Eclipse

Ralph Bowen(Ts, Ss)
Jared Gold(Or)
Mike Moreno(G)
Rudy Royston(Ds)
Rec. October 20, 2011, NY
(Posi-Tone Records PR8097)

同じPosi-Toneからの「Jared Gold / All Wrapped Up(11年、別頁あり)」にはラルフ・ボウエンが、また本作にはジャレッド・ゴールドが参加と、ここにきて二人の親密度はぐっと増しているようだ。ボウエンのアルバムとしてはアダム・ロジャース、ジョン・パティトゥッチ、アントニオ・サンチェスとの共演盤「Ralph Bowen/Dedicated(09年、別頁あり)」「Ralph Bowen/Due Reverence(10年、別頁あり)」が滅茶苦茶カッコよかったのだが、本作にもロジャースに匹敵するマイク・モレロが参加しているのでそそられる。モレロはリーダー作「Mike Moreno / Another Way(12年、別頁あり)」も素晴らしかったが、オルガン奏者と共演しているのはこれまで聴いたことがなかったので、いったいどのようなアプローチをみせているのか楽しみ。またJ.D.アレンのトリオで活動中のルディ・ロイストン(近々最新作「J.D. Allen / Matador & the Bull」もリリースされる)も知名度は低いものの、「Steve Cardenas/West of Middle(10年、別頁あり)」や先日聴いたばかりの「Linda Oh / Initial Here(12年、別頁あり)」でのドラミングも素晴らしかった。

全9曲がボウエンのオリジナル。
ゴールドが参加しているので4ビートが中心の比較的オーソドックスな演奏が展開されているものの、オルガンジャズの全盛期(60年代後半)とは違い、そのスピード感は半端ではない。何せボウエンのフレーズの基本は3連符ではなく16分音符だし、それに輪をかけてロイストンも細かい音符を駆使しながら非常にスピーディーに攻めまくってからね。今の時代はこれが当たり前としても、その古さと新しさが入り混じった演奏がまた異様にカッコよくて、1曲目から早くも買ってよかったという気にさせてくれる。さすがにボウエンはCriss Crossにもサム・ヤエルとの共演盤「Bowen/Soul Proprietor(02年)」「Ralph Bowen/Five(08年、別頁あり)」を残しているだけあってオルガンとの相性もバッチリなのだが、しいていうとボウエン、ゴールド、ロイストンの3人だけでもバンドとして成立しているので、曲によってはモレノがバッキングに入り込む余地がほとんどなくなってしまっているのが気になるところ。でもオルガンと変に勝ち合うよりは、完全に休んでしまった方がサウンド的にはスッキリしていいのかもしれない。その分アドリブではいつもながらのモレノ・ワールドを展開しているので、彼が弾き足りないといったことも全然ないわけだしね。そのフワッと感を醸し出しながらのクールなギターが違和感なくホットな演奏に溶け込んでいるのがなんともいい塩梅。それとボウエンのテナー(4曲目ではソプラノを吹いている)が素晴らしいのは当然として、ゴールドのさりげない上手さにも感心する。おそらく共演者に相当インスパイアされているのだと思うけど、彼が弾いているこれまでのアルバムの中で最高ではと思うほどのフィーリングのよさで楽しませてくれる。
楽曲はどれもがみんな良いのだが、その中でもアルバムの流れを大きく変えている8、16ビート基調の8曲目と9曲目が最高。8曲目は出だしのドラムソロからしてカッコいい、ボウエンお得意の速いパッセージを駆使しながらの曲だし、逆にゆったりとした9曲目では、テーマのユニゾンをモレノがパット・メセニーを意識して弾いている(というか楽曲自体がそれ風)のが微笑ましい。またPosi-Toneだけあって録音も優秀だし(エンジニアはNick O'Toole)、「Doug Webb / Swing Shift(12年、別頁あり)」とは違い、CDの精度も特に問題はなかったのでホッとした。サンチェス入りの「Dedicated」「Due Reverence」には及ばないかもしれないが、本作もオマケして5つ星にしたくなるほどいい出来だね。ただしアルバムタイトルの「Total Eclipse」(1曲目の曲名)に関しては、「Billy Cobham / Total Eclipse(74年、邦題は皆既食)」という最高の作品がすでに存在しているので、できれば別のタイトルにして欲しかった。

評価☆☆☆☆ (☆最悪!、☆☆悪い、☆☆☆普通、☆☆☆☆良い、☆☆☆☆☆最高!)