Steve Kuhn Trio / Wisteria

Steve Kuhn(P)
Steve Swallow(B)
Joey Baron(Ds)
Rec. September 2011, NY
(ECM 2257)

スティーヴ・キューンの近作では、同じくジョーイ・バロン参加の「Steve kuhn Trio w. Joe Lovano/Mostly Cotrane(09年、別頁あり)」が相当良かったので、ベースがデヴィッド・フィンクからスティーヴ・スワロウに代わっての本作にも期待している。今回は特にテーマは設けていないので、よりキューンの音世界が色濃くなっていそうな感じがするのだが、キューンとスワロウは過去にも「Steve Kuhn Trio/Three Waves(66年)」「Karin Krog/We Could Be Flying(75年)」「Steve Kuhn, Steve Swallow/Two by 2(96年?)」「Steve Kuhn & Steve Swallow/Live in Japan Vol.1(04年)」「同/Live in Japan Vol.2(04年)」等でなにかと共演していて、そこに一種の凶暴性を秘めたバロンも加わっているのだから、これまでの二人の共演盤とはまた一味違った演奏が楽しめそうだ。

キューン曲が6曲、スワロウ曲が2曲、ドリ・カイミの「Romance」、カーラ・ブレイの「Permanent Wave」、アート・ファーマーの「Wisteria」で全11曲。
ごく当たり前の4ビートをやっている1曲目は、アドリブをP~B~Ds~P~B~Dsと2回も繰り返していることに違和感を感じる。意図的にやったことだとは思うけど、1回目のドラムソロが終わったところでテーマに戻った方がスッキリとしていいような気がするけどね。それとベースがウッドではなくエレベの関係で、演奏がなんとなく間延びして聴こえるのも気になるところ。スワロウはゲイリー・バートンやジョンスコあたりとは最高の相性を見せるのだが、本作を聴く限りにおいては、硬質なイメージが強いキューンと相性が良いとはいい難い。それはヴォサノバ・タッチの2曲目でもそのように感じるのだが、キューンの硬質さを和らげるためのスワロウとの共演であったとするとある程度は納得がいくにしても、これがウッドのフィンクだったらもっと演奏が引き締まってよかったのになあとついつい思ってしまう。そんなキューンとスワロウのコンビネーションばかりが気になってしまい、なかなか素直に演奏に入り込むことができないのだが、バロンはどうかというと、こちらもまたキューンにしてはソフトタッチな選曲が多いこともあり、ハッとさせられるような凶暴性を発揮しているのはいいとこドラムソロだけなので欲求不満に感じてしまう。いつものようなズドーンと下に沈み込むバスドラの音もカットされているしね。エンジニアのジェームス・ファーバーは、バロンのバスドラの録り方が最高に上手いはずなのに、本作では思いっきりミュートしてしまっているので、ドラミングの面白さが半減してしまっているね。やっている音楽にドラムスの音色を合わせることも大事かもしれないけれど、その人の音的な個性まで消してしまうようでは意味がないだろう。
なんて思いながら聴いていたら、6曲目にしてようやく私好みの演奏が登場。アップテンポの4ビート曲だけど、スワロウの滑らかなベースに乗っかり、キューンが疾走感のあるピアノを弾いているし、バロンもかなりアグレッシブに叩いていて、ここまで聴いてモヤモヤしていた気持ちが解消した。やっぱりキューンはこうでなくては面白くもなんともないのだが、やはり年を取るとアルバム一枚分をテンションの高い演奏で押し通すというわけにもいかなくなるのだろう。全体的にはむしろリラックス感の方がよく目立っているので、これよりだったらヴィーナスからの諸作品の方がまだマシだったと感じてしまう。特にビル・スチュワート参加の「Steve Kuhn Trio/Love Walked In(98年)」は絶品だった。

評価☆☆☆ (☆最悪!、☆☆悪い、☆☆☆普通、☆☆☆☆良い、☆☆☆☆☆最高!)