Vijay Iyer Trio / Accelerando

Vijay Iyer(P)
Stephan Crump(B)
Marcus Gilmore(Ds)
Rec. August 8-9, 2011, NY
(ACT 9524)

ヴィジェイ・アイヤーを聴くのは、「Vijay Iyer Trio/Historicity(09年)」「Vijay Iyer with Prasanna & Nitin Mitta / Tirtha(11年)」「Rez Abbasi's Invocation / Suno Suno(11年)」(各別頁あり)に次ぎ本作でまだ4枚目だが、彼のルーツであるインド音楽的な要素(特に変拍子)を取り入れながらの演奏が大いに気に入っている。その中でも初聴きだった「Historicity」は、ただでさえ複雑な曲構成なのに加えて、マーカス・ギルモアがトリッキーなドラミングでますます拍子を分かり難くしていたりして、これまでのピアノトリオにはないような不思議な感覚が味わえたのだが、本作もそれと同一メンバーによるレコーディングなのだからワクワクする。アイヤーほどの独自の音楽性を持っているピアニストは、きっと共演者選びに苦労すると思うけど、アイヤーがやりたいことをきちんと理解したうえで、トリオとしての演奏をさらに強靭なものにしているステファン・クランプとギルモアに任せておけば何も問題はないだろう。

アイヤー曲が5曲と、ジョン・ベティスの「Human Nature」、ハービー・ニコルスの「Wildflower」、エリントンの「The Village of the Virgins」等で全11曲。
相変わらず変拍子の嵐で、拍子を数えているだけでも頭がパニックを起こしそうになるのだが、アイヤーはこれ見よがしに速弾きをしているわけでもないので、表面的には大らかなサウンドに聴こえる。とはいえよく知っている楽曲「Human Nature」(4曲目)なんかも、アイヤーのピアノに対してギルモアが全く別のビートをぶち込んだ完全ポリリズムとなっていて、しかも中盤のベースソロらしき部分からはまたビートとノリを変えていたりしているのだから、一筋縄ではいかないことに変わりはない。それがこのトリオの最大の魅力なのだが、聴き手が音楽理論とまではいかないものの、リズムに対しての最低限の知識を持っていなければ素直に演奏を楽しむことができないのが逆に欠点。ただ単に「1、2、3、4」と体を動かしながら乗れるような音楽とはわけが違うからね。それと同一メンバーによる前作「Historicity」でも感じたことだけど、変拍子やポリリズムを理解するためには音楽理論よりも、むしろ数学的なものが要求されるかもしれない。そのように体で感じるというよりも、どちらかというと頭で考えるような音楽をやっているので聴き手を選んでしまうかもしれないのだが、バッチリとツボに嵌っている私としては、そのトリッキーさがなかなかの快感。そんな中4ビートの5曲目「Wildflower」や12/8拍子の11曲目「The Village of the Virgins」は、比較的素直な演奏をしているのもいいアクセントになっているね。どれだけこの手の演奏が好きだとしても、のべつ幕無しやられては腹いっぱいになってしまうので、この2曲にはホッとさせられる。ベストトラックは10曲目「Actions Speak」。この1曲に本トリオの面白さが集約されているのに加えて、ギルモアのドラムソロまで楽しめる。
それにしても複雑な演奏のわりには曲作りはラフな感じがするし、クランプを間に挟んでアイヤーとギルモアのプレイが違うベクトルを向いているように感じる部分もあるのに、それでいながらトリオとしての統制がきちんと取れているのがさすがだね。相手の出方に常に神経を集中させていないと、なかなかこうはいかないだろう。録音はスネアがローチューニングで、曲によってはさらに低くしているのが気になるところ。それがドラムスの音的なルーズさに繋がっているのだが(ドラミング自体はキビキビしているが)、あえてそんな音にすることによりリラックス感を醸し出し、必要以上に難解に感じさせないよう配慮したのかもしれない。もしそうだとすると演奏だけではなく録音もよく計算されているね。
アルバム・タイトルのAccelerandoは加速させるという意味のようだけど、演奏の勢いは前作「Historicity」の方があったかも。本作での3人のプレイは、それと比べると丸くなっているような印象を受ける。

評価☆☆☆☆ (☆最悪!、☆☆悪い、☆☆☆普通、☆☆☆☆良い、☆☆☆☆☆最高!)