Enrico Pieranunzi / Permutation

Enrico Pieranunzi(P)
Scott Colley(B)
Antonio Sanchez(Ds)
Rec. November 17-20, 2009, Ludwigsburg, Germany
(Cam Jazz CAMJ7845)

エンリコ・ピエラヌンツィがリズム隊の最強コンビであるスコット・コリー、アントニオ・サンチェスと共演しているのだから、これはもう今年のベスト10入りは確実だろう。聴く前からこんなにワクワクするアルバムというのもそうそうあるものではない。ピエラヌンツィは「Enrico Pieranunzi Latin Jazz Quintet / Live at Birdland(10年、別頁あり)」でもサンチェスと共演しているので、そこからの流れであろうことは容易に想像できるのだが、「Live at Birdland」ではホーン入りでラテンジャズをやっていたのに対して、はたしてピアノトリオの本作ではどんなことをやっているのか楽しみ。ピエラヌンツィのトリオはマーク・ジョンソン、ジョーイ・バロンとやっているのも素晴らしくて、「E.Pieranunzi,M.Johnson,J.Baron/Dream Dance(09年、別頁あり)」なんかも5つ星にしているし、臨時編成と思われるハイン・ヴァン・デ・ゲイン、アンドレ・チェカレリとの「Enrico Pieranunzi/Live in Paris(05年、別頁あり)」も最高だったのだが、「Alex Sipiagin/Returning(05年)」「Scott Colley/Architect of the Silent Moment(07年)」「Manuel Rocheman/Cactus Dance(07年)」「Alex Sipiagin/Prints(07年)」「Alex Sipiagin/Out Of The Circle(07年)」「Antonio Sanchez/Migration(09年)」「Donny McCaslin/Declaration(09年)」「Emilio Merone,Luca Nostro: sys2 Quartet/Element(09年)」「Margret/Com Voce(10年)」「Antonio Sanchez / Live in New York: at Jazz Standard(10年)」「Billy Childs Ensemble / Autumn: In Moving Pictures (Jazz-Chamber Music Vol.2)(10年)」「The New Gary Burton Quartet / Common Ground(11年)」(各別頁あり)でも抜群のコンビネーションをみせているサンチェスとコリーが揃って参加している本トリオにはそれ以上の魅力を感じる。録音は2009年11月と少々古目だけどね。

全9曲がピエラヌンツィのオリジナル。
ラテン的なタッチも取り入れながらの4ビートが主体。楽曲は比較的ラフな作りのものが多く、その場の状況に応じて曲中でリズムが変化していく様がたまらなくカッコいい。3曲目まではこのリズム隊の特性を最大限に生かした動的な演奏が続くのだが、その中でも6/8拍子の2曲目でのピアノとベースのバッキング入りのロング・ドラムソロの凄まじさには圧倒される。サンチェスは「Live at Birdland」でも大活躍していたけれど、本作でのドラミングはそれ以上に強力無比。ピエラヌンツィがこれまで共演してきたドラマーに輪をかけてサンチェスはアグレッシブなタイプなので、おそらくそんな部分が買われているのだと思うけど、好きなように叩かせてくれるピエラヌンツィのリーダーとしての器の大きさにも感心するね。そんなピエラヌンツィ自身のピアノは、サンチェスとコリーの特性に合わせてリリカルな、というかエヴァンス・ライクな部分は排除していて、どちらかというとチック・コリア的にリズムでガンガン攻めているかと思いきや、4曲目のバラード以降はリリカルな面もきちんと打ち出しているので、そっち系の演奏が好きな人にとっても充分に納得がいくのではと思う。特に7曲目の抒情的なバラードの美しさたるや相当なもの。そんな曲であったとしてもピエラヌンツィは当然として、コリーとサンチェスも曲調にバッチリと嵌った最高の表現力で聴かせてくれるのだから、さすがに大したものだね。それに続くコリアの「Now He Sings, Now He Sobs」中の「Steps-What Was」からヒントを得たと思われる動的な8曲目なんかも、原曲(元演奏)以上に高度かつカッコいい演奏となっているのだから嬉しくなってしまう。
ピエラヌンツィだけではなく、コリーとサンチェスの見せ場もちゃんと用意されていながらの、動と静のバランス感覚に長けている演奏はどの曲からもインタープレイ的な要素が感じられて、私にとっては理想的なピアノトリオだね。予想していたとおり演奏は文句なしの5つ星なのだが、音質に関してはベースが少々柔らかく録れているのが残念。コリーの音はもっと硬質なイメージだし、そんな音の方が本演奏にますますフィットしたのではと思う。
それにしても3人が未来かどこかから転送されてきたような、少々不気味なジャケット・デザインには何か深い意味がありそうだ。

評価☆☆☆☆☆ (☆最悪!、☆☆悪い、☆☆☆普通、☆☆☆☆良い、☆☆☆☆☆最高!)