Florian Ross Elektrio / Wheels & Wires

Florian Ross(Hammond B3)
Jesse van Ruller(G)
Martijn Vink(Ds)
Rec. March 8-10, 2011, Koln
(55 Records FNCJ5549)

「Kenny Werner with the Brussels Jazz Orchestra / Institute of Higher Learning(11年、別頁あり)」のところで、「Jazz Orchestra of the Concertgebouwで同じ釜の飯を食っているジェシ・ヴァン・ルーラーとマタイン・ヴィンクのコンボでの共演盤は「Jesse van Ruller/Live at Murphy's Law(04年、別頁あり)」以来久しくリリースされていないので、新作が待ち遠しい」と書いたけど、その願いが本作で実現しているのが嬉しい。リーダーのフロリアン・ロス(1972年ドイツ生まれ)はお気に入りのピアニストの一人。リーダー作は「Florian Ross Quintet/Home & Some Other Place(05年)」「Florian Ross Trio/Big Fish & Small POND(06年)」「Florian Ross/Eight Ball & White Horse(07年)」(各別頁あり)の3枚を所有しているのだが、オルガンを弾いているのを聴くのはこれが初めてなので、はたしてやり手のルーラーやヴィンクを相手にどんなことになっているのか興味深い。逆にルーラーがオルガン奏者と共演しているのも、確かこれまでは聴いたことがなかったと思うのでなおさらだね。ちなみに本作でのロスは演奏のみならず、プロデュース、ミキシング、マスタリング、カバーデザイン、フォトも全て手掛けている。

ロス曲が9曲とルーラー曲が1曲で全10曲。
このメンバーでのオルガントリオなので、当然ながら60年代を連想させるようなファンキー、アーシーなサウンドとは異なっている。1曲目なんかはルーラーがギターの音を歪ませながら弾いていて、まるでジョンスコのような感じだね。続く2曲目もいつもの音質に戻してはいるけれど、どことなくラリー・ゴールディングスが参加していた90年代のジョンスコ・バンドを思わせるような雰囲気だったりして、もしかすると本人たちもそれを意識して演奏したのかもしれない。もちろん彼らなりの味付けをきちんとしているので、曲が進むにつれてそういうイメージも次第に薄れてくるけどね。でもジャムバンド的な要素や曲によっては4ビートもあったりして、やっていること自体は大差ないと思う。演奏面においてはルーラーが主役で、ロスはほとんどわき役に回っているのは楽器の編成上仕方ないのかもしれないが、それにしてもボヤっと聴いているとアドリブをとっているのかいないのか分からないほどの奥ゆかしさには拍子抜けしてしまう。オルガンのベースラインもちょっと弱いような気がするね。わたし的にはキース・ジャレットを始めとするECM系のピアニストを手本としていながらも、けっこうアグレッシブに弾き倒しているアコピでのプレイの方が好き。どうせならこのメンバーにベースも加えて、オルガンではなく前作「Eight Ball & White Horse」同様アコピとエレピでやって欲しかった。もちろんよく聴くと他の人とはちょっと感覚が違うエッジの効いたアドリブを取っているけれど、なんとなく中途半端な感じがして(アドリブもそんなに長くはない)、もしかするとアコピほどにオルガンのスタイルはきちんと確立できていないのかもしれない。なので余計にルーラーの上手さがよく目立つのだが、こちらの方はジョンスコを意識し過ぎの感はありながらも、楽曲の範囲内とはいえ最高の表現力で聴かせてくれて実にいい塩梅だね。さすがにヨーロッパのギタリストの中で群を抜いているだけのことはある。またそんなルーラーのギターには、共演する機会の多いヴィンクの溌剌としたドラミングがよく似合っていて、この2人のおかげでなかなか魅力的なアルバムに仕上がっている。
ベスト曲はラストの10曲目。ファンク調の曲も決して悪くはないけれど、こういうアップテンポの4ビートになると、ルーラーの上手さがさらに際立ってくるね。ただしいきなりプッツリと終わってしまう曲の終わり方はイマイチ。アルバムの最後の曲なので、エンディングは「ジャーン」(最後の音を伸ばすよくあるパターン)でいった方がよかったと思う。

評価☆☆☆☆ (☆最悪!、☆☆悪い、☆☆☆普通、☆☆☆☆良い、☆☆☆☆☆最高!)