Abstract Logix Live! / The New Universe Music Festival 2010

・Alex Machacek(G), Jeff Sipe(Ds), Neal Fountain(B)
・Ranjit Barot(Ds, Voice), Bala Bhaskar(Vln), Scott Kinsey(Key), Matthew Garrison(B), Arto Tuncboyaciyan(Per, Voice), Wayne Kranz(G)
・Scott Kinsey(Key), Matthew Garrison(B), Arto Tuncboyaciyan(Per, Voice), Ranjit Barot(Ds)
・Jimmy Herring(G), Neal Fountain(B), Matt Slocum(Key), Jeff Sipe(Ds)
・Wayne Krantz(G), Anthony Jackson(B), Cliff Almond(Ds)
・Lenny White(Ds), Jimmy Herring(G), Tom Guarna(G), Richie Goods(B), Vince Evans(Key)
・John McLaughlin(G), Etienne M'Bappe(B), Gary Husband(Key, Ds), Mark Mondesir(Ds), Special Guest: Zakir Hussain(Tabla)
Rec. November 20-21, 2010, North Carolina
(Abstract Logix ABLX030)

Abstract Logixレーベルの凄腕ミュージシャンが一堂に会した2枚組ライブ盤。ジェフ・サイプ、ニール・ファウンティン、ランジット・バロット、スコット・キンゼイ、マシュー・ギャリソン、アルト・タンクボヤチアン、ウェイン・クランツ、ジミー・ヘリングが2バンドを掛け持ちしていたりして、厳密にはレギュラー・メンバーでの演奏とはいえない部分もあるのかもしれないが、それにしてもこの豪華な面々には聴く前から興奮させられる。前置きをぐだぐだと書いている時間がもったいないので、Abstract Logixからリリースされている本出演者関連のアルバムとしては、「Alex Machacek,J. Sipe,M. Garrison/Pmprovision(07年)」「John McLaughlin/Floating Point(08年)」「Alex Machacek/The Official Triangle Sessions(09年)」「Jon McLaughlin 4th Dimension/@ Belgrade Live(DVD、09年)」「Wayne Krantz/Krantz Carlock Lefebvre(09年)」「John McLaughlin and the 4th Dimension/To the One(10年)」「Lenny White/Anomaly(10年)」「Ranjit Barot / Bada Boom(10年)」「Human Element / Human Element(11年)」(各別頁あり)等や、当方未所有の「Jimmy Herring/Lifeboat(08年)」があるということを書き留めておくだけにしておいて、さっそく聴いてみるとしよう。

Disc1(11月20日のライブ)には、アレックス・マクヘイサック・バンドの演奏が2曲、ランジット・バロットのバンドが2曲、スコット・キンゼイとアルト・タンクボヤチアンによるHuman Elementが2曲、ジミー・ヘリングのバンドが3曲、またDisc2(11月21日のライブ)にはウェイン・クランツ・バンドが1曲、レニー・ホワイト・バンドが2曲、ジョン・マクラフリンの4th Dimensionが2曲収録されていて、全14曲。
マクヘイサックのトリオによる、テーマ部分でフランク・ザッパ的な奇数連符が続出する1曲目から早くもノックアウト。こんな複雑な楽曲をライブで平然とやってのけるなんて、さすがに凄いトリオだね。アドリブ部分はごく当たり前の4/4拍子で進行していくけれど、マクヘイサックにしてもファウンティンにしてもサイプにしても、高度な技法を惜しげもなく披露していて、そのようなテクニカルな演奏が大好きな私としては、もうこの1曲目だけでも買ってよかったという気分になる。それにしてもマクヘイサックのプレイを聴いていつも思うことだけど、バックで鳴っているシンセ音はどのようにして出しているのだろう。ギターのフレーズ絡みとは違う音で鳴っているような気がするけれど、かといって同期ものではないような感じだし、その辺はDVD作品「Terry bozzio, P. O'Hearn, A. Machacek/OUT Trio(07年、別頁あり)」を観たときもよく分からなかった。そんなマクヘイサック・トリオの滅茶苦茶カッコいい演奏がもう1曲続いた後はランジット・バロットのバンドが登場。昨年リリースの「Ranjit Barot / Bada Boom」はコンテンポラリージャズ部門の私的1位だったけど、本演奏の方もいきなりロング・ドラムソロだったりして、ドラム好きにとってはたまらない演奏となっている。マハビシュヌ・オーケストラの時代から慣れ親しんでいるインド音楽節も思いっきり炸裂しているし、ライブということでさらに演奏が強化されていて、マクヘイサック・トリオに続きこちらの方もとんでもなく凄いことになっているね。バロット以外のメンバーではバイオリンのBala Bhaskarが大活躍しているし、続く4曲目ではウェイン・クランツもいかにも彼らしいプレイで聴かせてくれる。5曲目はHuman Element。バロットのバンドからバイオリンとギターが抜けた編成ということで、レギュラー・ドラマーのゲイリー・ノヴァックが参加していないのは残念だけど、その代りセッティングを大きく変える必要がないので、きっとステージの進行はスムーズにいったことだろう。バロットのバンドと同じメンバーではあるが、こちらの方は4曲目以上にWR色が強くなっていのが聴きどころ。この辺は完全にキンゼイのカラーなのはいまさらいうまでもないのだが、トラ的に参加しているバレットがノヴァック以上にアグレッシブなドラミングを見せているおかげで、このバンドもまた「Human Element / Human Element」よりもはるかに凄いことになっているね。6曲目でのギャリソン(かな?)のイケイケぷりも半端ではない。7曲目は、意識して聴くのはこれが初めてのジミー・ヘリングの演奏。リズム隊がマクヘイサックのトリオと同じファウンティンとサイプなので、このバンドもまた超強力だし、サイプ提供の楽曲もいかにもドラマーらしく変則的な9拍子だったりして滅茶苦茶カッコいいね。でもヘリング曲の続く8曲目はちょっとありきたりかな。とはいえここまであまりにもカッコいい曲ばかりが続いたので、いい息抜きにはなる。9曲目がジョージ・ハリスンの「Within You, Without You」なのには意表をつくけれど、インド音楽絡みのマクラフリンやバロットも参加しているライブなので、ステージの流れとしては曲調的にバッチリ嵌っているね。ヘリングはジャムバンド界を代表するギタリストのようだけど、この人もまた他の参加ギタリストに負けないほどのテクニシャンなので、微妙なビブラートはイマイチ好きになれないにしても、今後は注目しておく必要があるだろう。
Disc2の1曲目はクランツ、アンソニー・ジャクソン、クリフ・アーモンドによるトリオ演奏。ファンクを基調としながらも、曲中で表情がどんどん変わっていくのがカッコいい。クランツは細かいフレーズで攻めまくるというよりも、どちらかというとファンキーなギター・カッティングを重視したプレイをしているのだが、それでも途中からはアナログ・シンセのようなギター音に変えてみたりして、かなりアグレッシブなプレイを繰り広げているね。またそれ以上にアーモンドの頑張りがよく目立つ。昔はミッシェル・カミロのアルバム等でよく聴いていたアーモンドだけど、本演奏でも全く衰えが感じられないパワーとテクニックで、容赦なくガンガンいっているのが素晴らしい。クランツのトリオはなぜかこれ1曲だけで終わるので、できればもう1曲欲しかった。2曲目はレニー・ホワイトのバンド。これまでの超テクニカルなバンドと比較すると、ブルース進行のシャッフル調の演奏だったりしていささかサウンドは単調だが、むしろそれがリラックス感を醸し出していていい塩梅。ヘリングとトム・ガーナのツインギターに、ベースとキーボードも加わってのソロ回しがなかなかの聴きものだし、再結成RTF時と同様、ホワイトの張り切りドラミングも存分に楽しめる。ドラムソロでは拍ずらしのトリッキーなフレーズまで取り入れたりして、まだまだ若い者には負けていられないという気持ちがビンビン伝わってくるね。また続く7/8拍子と4/4拍子の混合曲でも、いよいよ本領発揮って感じでアグレッシブに攻めまくっている。ステージのトリを飾るのはマクラフリンの4th Dimension。その相変わらずのスピーディーな演奏には圧倒されてしまうのだが、ラストの6曲目にはザキール・フセインもゲストで加わって、ますます凄いことになっている。特にゲイリー・ハズバンドがドラム席に座ってからの、マーク・モンデジール、フセインとのソロ回しのあまりの凄まじさには、あんぐりと開いた口が塞がらない。
ということでどのバンドも最高だし、各楽器がキッチリと捉えられている録音も上々で、本作にはもう何も文句がない。9月20日にはDVDもリリース予定で、ラッキーなことにリージョン・フリーなので、そちらの方も注文するとしよう。

評価☆☆☆☆☆ (☆最悪!、☆☆悪い、☆☆☆普通、☆☆☆☆良い、☆☆☆☆☆最高!)