Stefano Di Battista / Woman's Land

Stefano Di Battista(As, Ss)
Jeff Ballard(Ds, Per)
Jonathan Kreisberg(El-G, Ac-G)
Francesco Puglisi(B)
Roberto Tarenzi & Julian Oliver Mazzariello(P)
Ivan Lins(Vo)3
Fabrizio Bosso(Tp)8,10
Rec. January 26-28, 2011, Roma
(Alice Records 034105340039)

ステファノ・ディ・バティスタの新譜だけど、値段が2,933円(HMV価格、Amazonは3,506円)とバカ高くて、注文するのにはかなりの勇気が必要だった。でもジェフ・バラードにジョナサン・クライスバーグとくれば、オッカケしている身としては買わないわけにはいかないんだよね。もしかすると私のようなバックのメンバーに釣られてしまう人間を見越しての値付けだったのかもしれない(苦笑)。
バティスタはストリングス入りの「Round About Roma(02年)」、チャーリー・パーカーを意識した「Parker's Mood(04年)」、オルガンジャズをやっていた「Stefano Di Battista/Trouble Shootin'(別頁あり)」と、アルバムごとにコンセプトやメンバーを変えているのだが(その他に共同名義の「Stefano Di Battista,Danilo Rea,Dario Rosciglione,Roberto Gatto/La Musica Di Noi(10年、別頁あり)」もあり)、バラード、クライスバーグを迎えての本作では、はたしてどのようなジャズをやっているのかが楽しみ。他のメンバーは、ゲスト参加のイヴァン・リンスとファブリッツィオ・ボッソ以外は名前に記憶がないけれど、ベースのフランチェスコ・プグリシ(?)は「Andrea Beneventano Trio / The Driver(10年、別頁あり)」に、ピアノのロベルト・タレンツィは「Liebman,Tarenzi,Benedettini,Arco/Dream of Nite(07年、別頁あり)」に、同じくピアノのジュリアン・オリヴァー・マッザリエロ(?)は「Daniele Scannapieco/Lifetime(08年、別頁あり)」「Andre Ceccarelli Trio/Sweet People(09年、別頁あり)」に参加している人だった。このマッザリエロはHigh Five Quintet(現High Five)の初代ピアニストでもあるんだね。

全12曲がバティスタのオリジナル。
1曲目はコルトレーンが演奏する「My Favorite Things」をもっと爽やかにしたような曲調で、バティスタはソプラノを吹いている。アドリブの途中で実際に「My Favorite Things」のフレーズが登場してくるあたりにはバティスタのサービス精神が感じられるのだが、それよりもクライスバーグのアドリブのあまりのカッコよさには早くもぶっ飛んでしまう。2曲目は「Coming Home Baby」的な8ビートで、コンテンポラリー・ジャズというよりは、どちらかというとフュージョンに近い演奏となっている。バティスタがアルトに持ち替えて、サンボーンばりに情感的に吹いているのが何ともいい塩梅。3曲目はイヴァン・リンス入りの曲。いかにもリンスらしいボサノバ・タッチの演奏で、テーマ部分で軽い感じでオブリガードをしているバティスタ(ソプラノを吹いている)は、アドリブに入ってからは次第に情熱的になってきて、その上手さを見せつけてくれる。4曲目は仰々しいイントロで始まる、シャンソンやタンゴ、あるいはディキシー的な匂いが感じられる曲調。最後にまたイントロ部分が登場するのには、何らかのストーリー性が感じられる。5曲目は急速調の4ビート。バティスタがパーカー風にガンガンいっているし、それに続くクライスバーグもアドリブはそんなに長くはないけれどハイスピードで弾きまくっているね。バップを感じさせる曲調の中において、テーマ部分での必要以上に繰り返される現代的な拍ずらしの5連符フレーズが滅茶苦茶カッコいい。6曲目はシャッフル調の変則的なブルース演奏。この曲でもクライスバーグの南部ロック的なギターが絶品だね。3/4拍子の7曲目は、2人のピアニストのどちらかは分からないけれど、抒情的ないい感じのアドリブを取っている。8曲目は思いっきりのロック調となっているのが凄い。バティスタはケニー・ギャレットを彷彿とさせるような熱いプレイでノリノリに吹きまくっているし、ゲスト参加のボッソもド派手なフレーズを駆使しながら容赦なくいっているし、クライスバーグも音をギンギンに歪ませながら本領を発揮している。
残りの曲は省略するけれど、ここまで聴いてきてどの曲も曲名が女性の名前になっていることに気がついた。12曲目だけが総括的に「Woman's Land」となっていて、それがアルバムのタイトルでもあるのだが、そういえば4曲目の「Coco Chanel」なんかは、いかにもシャネルのイメージにピッタリのサウンドだね。各女性のイメージに合わせていろんなスタイルのジャズをやっているので、アルバムとしてはごった煮的な感じがしないでもないけれど、バティスタがどの曲においても最高のテクニックとセンスで聴かせてくれるし、他のメンバーもクライスバーグと2人のゲスト以外は出番が少ないものの、それなりにきちんとした仕事をしているので、最後までノリノリで楽しめた。ジェフ・バラードもドラムソロはないけれど、曲調によく合ったドラミングで聴かせてくれるしね。
比較的分かりやすいジャズをやっていながらも、聴き終わった後にはちゃんと充実感が残るのは、それだけ中身の濃い演奏をしているからだろう。女性がテーマとなっているのに、そのサウンドは決して軟弱なものではなく、むしろ女性の強さが表現されているのには大いに好感が持てる。またリリース直前になって(?)差し替えられたジャケットもこれで正解。最初のやつ(↓)だと、リリカルな内容だと勘違いされるかもしれない。

評価☆☆☆☆ (☆最悪!、☆☆悪い、☆☆☆普通、 ☆☆☆☆良い、☆☆☆☆☆最高!)

Stefano Di Battista / Woman's Land2