Nguyen Le / Songs of Freedom

Nguyen Le(G)
Illya Amar(Vib, Marimba, Electronics)
Linley Marthe(El-B, Vo)
Stephane Galland(Ds)
Guests: Youn Sun Nah(Vo)1,10 Dhafer Youssef(Vo)3,4 David Linx(Vo)2,7,9,15 Ousman Danedjio(Vo)1,2,5,7,15 Julia Sarr(Vo)7,11,15 Himiko Paganotti(Vo)2,5,7,12,15 David Binney(As)9 Prabhu Edouard(Per, Tablas, Vo)2,10 Stephane Edouard(Per)1,4,9,12,15 Karim Ziad(Ds, Per, Karkabus)5,10 etc.
Rec. July to October, 2010, Paris
(ACT 9506)

ベトナム系フランス人ギタリストのグエン・レは、「E_L_B(01年)」「E_L_B/Dream Flight(08年、別頁あり)」「Vince Mendoza/Blauklang(08年、別頁あり)」でしか聴いたことがなく、1枚ぐらいはリーダー作もと思っていたところに本作がリリースされたのですぐに飛びついた。ところがクレジットをよく見てみたら、なんとまあヴォーカリストの多いこと(苦笑)。でもグエン・レの音楽性からしてジャズ・ヴォーカル的なものではないと思うので、これでよしとしておこう。共演者はザヴィヌル・シンジケートでお馴染のリンレイ・マルト(シンジケート以外では「Mario Canonge/Rhizome Tour(08年、別頁あり)」でのプレイが凄かった)と、ゲストで1曲に参加しているデヴィッド・ビニー以外は知らない人ばかり。ヴァイブのIllya Amar(何と読む?)とドラムスのステファン・ガーランドは共に本人のサイトが見つかったので、後で目を通しておくとしよう。

グエン・レ曲が4曲と、レノン~マッカートニーの「Eleanor Rigby」「Come Together」、ステイーヴィー・ワンダーの「I Wish」「Pastime Paradise」、レッド・ツェッペリンの「Black Dog」「Whole Lotta Love」、ジャニス・ジョプリンの「Marcedes Benz」「Move Over」、ボブ・マーリーの「Redemption Song」、クリームの「Sunshine of Your Love」、アイアン・バタフライの「In A Gadda da Vida」で全15曲。
1970年前後のよく知られたミュージシャンの既成曲に、アジア全域からアフリカあたりまでの国々の伝統音楽のエキスが見事に融合しているのが素晴らしい。ジャズというよりはフュージョンといった方がピンとくるサウンドなのだが、原曲自体がポップス(ロック含む)なので、こういう曲にはヴォーカルが入っていても全然オーケー。プログレやインド音楽的な要素も絡んでいて、場面によっては複雑なキメどころがビシバシあるので、ただでさえカッコいいサウンドがますます凄いことになっているし、どの曲においてもグエン・レのギターの上手さが冴え渡っているね。E_L_Bのときからただ者でないとは思っていたけれど、さすがにリーダー作だけあって、あらゆるテクニックを駆使してギンギンに弾きまくっているし、いい意味での変態度も満点。それでいながら決して独りよがりのプレイにはなっていないのだから大したものだね。それに輪をかけて楽曲に大胆なアレンジを施すことによって、完全に自分のものにしているのにも非常に好感が持てる。その中でもプログレに大変身させている4曲目「Black Dog」と、同じくツェッペリン曲をインド音楽と融合させている10曲目「Whole Lotta Love」のあまりの凄さにはぶっ飛んでしまった。だいたいにして、ヴォーカルとギターのデュオでスタートするビートルズの1曲目「Eleanor Rigby」からして滅茶苦茶カッコいいものね。デヴィッド・ビニー入りの9曲目の「Move Over」(ジョプリン曲)も、アフリカ・チックなものに加えてM-BASE的なファンク調の部分まであったりして聴きものだし、9拍子で演奏されるラスト曲「Come Together」のメロディーに、四分の一音までぶち込んでいるように聴こえるユニークさも同様で、原曲を知っているほどにそのアレンジの緻密さやカッコよさが堪能できる。またグエン・レばかりではなく、メンバー全員がテクニシャン。マルトが上手いのは当然として、ガーランドもテクニカル・フュージョン・ドラマーといった感じの私の好きなタイプなので、もうこの2人を聴いているだけでも楽しむことができる。さらにはパーカッションやタブラ奏者まで参加していて要所要所で大活躍しているのだから、リズム好きにとってはなんともたまらない。「Whole Lotta Love」では、ご丁寧にもインド音楽お定まりの口タブラ(Konnakol)まであるしね。それとIllya Amarのマリンバやヴァイブも非常に効果的。それがバンドとしてのインパクトにも繋がっているのだが、この辺はもしかすると昔のプログレバンドのゴング(「Gong/Gazeuse!(76年)」が懐かしい)あたりからヒントを得たのかもしれない。
本作は演奏にはノックアウトされるのに加えて、音も異常に良いね。特に女性ヴォーカルの艶めかしさにはゾクッとする。ACTレーベルからここまでフュージョン臭いアルバムがリリースされるなんて信じられないのだが、単に私が聴いていないだけで、きっとグエン・レの過去盤もこんな感じだったのだろう。ここまで良いとなると全部聴いてみたくなるね。

評価☆☆☆☆☆ (☆最悪!、☆☆悪い、☆☆☆普通、☆☆☆☆良い、☆☆☆☆☆最高!)