Kris Bowers / Blue in Green (J)

Kris Bowers(P)
Ben Williams(Ac-B, El-B)
Clarence Penn(Ds)
Rec. November 21, 2008, NY
(M&I MYCJ30580)

クリス・バワーズ(1989年LA生まれ)は今回が初聴き。ライナーによると、ジュリアード音楽院の修士課程に在学中で、これまでにボビー・ワトソン、イングリッド・ジェンセン、ベニー・グリーン、テレンス・ブランチャード、テレル・スタッフォード、ロドニー・ジョーンズ、カート・エリングらと共演。また2007年にはマイケル・ディースの「ディーズ・ボーンズ」に参加し、2009年には「ジュリアード・ジャズ・オーケストラ」のピアノの座を獲得しているそうだ。そんなバワーズが2008年(当時19歳)に録音したのが本初リーダー作で、私としてはクラレンス・ペンと魅力的な選曲に釣られて買っている。バワーズが好きだというレッド・ガーランド、ビル・エヴァンス、ウィントン・ケリー、ハービー・ハンコック、チック・コリアの楽曲を取り上げていて、結果的にはマイルス・バンドに在籍していたピアニスト集となっているのだが、その選曲のセンスが実にいいね。国内盤はなにかと企画ものが多いけど、こういうのだったら大歓迎だ。
メンバーのベン・ウィリアムスは、ここ2年ぐらいでメキメキと頭角を現してきたベーシスト。近作の「Jacky Terrasson/Push(10年)」「Alex Brown/Pianist(10年)」「Chihiro Yamanaka/Forever Begins(10年)」(各別頁あり)でのプレイを聴いて、ますます好感度が増している。ドラマーのペンについてはもはや説明不要だろう。私としては秋田県にいながらにして、椎名豊トリオで生で観ることができたのが最高の想い出となっている。

バワーズのオリジナルが2曲と、ケリーの「keep it Moving」、ハンコックの「Maiden Voyage」「The Sorcerer」、ガーランドの「Marie's Delight」「Prelude Blues」、マイルスの「Blue in Green」、エヴァンスの「Nardis」、コリアの「Matrix」「Spain」で全11曲。
演奏がどうのこうのという前に、まず録音が素晴らしいね。エンジニアは内藤克彦。各楽器とも非常にリアルに録れているし、ダイナミックレンジも抜群だし、音像もスピーカー間に立体的に浮かび上がっていて、見事としかいいようがない。その音質には「血が通う」という表現がぴったりの温かさがあって、もうこんな極上の音が聴けるだけでも大満足。今年のベスト・アルバムには、本作のために「録音賞」も設けることにしよう。
そんな音の良さにばかりついつい耳が行ってしまうのだが、演奏の方もなかなかのもので、とても19歳とは思えないような落ち着きを見せているバワーズのピアノには将来の大物ぶりが感じられる。私好みのテクニックでガンガン迫ってくるようなタイプではないけれど、本作で取り上げているピアニストたちのいいとこどりって感じで、エヴァンスのような白っぽいプレイから、6曲目「Prelude Blues」におけるブルース・フィーリングがタップリの黒いプレイ、さらにはハンコックの流れを汲んでいるモード派の現代ピアニストにも共通するような部分や、ヨーロッパ的なリリカルな一面、10曲目「Matrix」のテーマ部ではコリア的な硬質さをもきちんと表現していて、その語り口の間口の広さには感心する。数か所でミスタッチがあるけれど、おそらくこれが初レコーディングと思われるので、これでよしということにしておこう。またバワーズ以上に感心するのがウィリアムスで(音が良いのでそのように感じるのかも)、本作での非常に存在感のあるウォーキング・ベースやテクニカルなソロを聴くと、彼が売れっ子になってきている理由がよく分かるし(2曲で披露しているエレベ・プレイにも好感が持てる)、いつ聴いてもスピード感がタップリのペンによる、ウッドブロックやカウベル等の小間物までも用いながらのいい意味でコミカルなドラミングも、下手すると一本調子になりがちなピアノトリオとしてのサウンドを、より魅力的なものへと変えているね。ペンがドラマーでなければ、おそらくここまで聴き応えのあるアルバムには仕上がっていなかっただろう。
そにしてもこの「音の良さ」には完全にノックアウトされてしまった。内藤録音ものはMax Jazz盤も素晴らしいけれど、本作ではさらに磨きが掛かっているね。

評価☆☆☆☆ (☆最悪!、☆☆悪い、☆☆☆普通、☆☆☆☆良い、☆☆☆☆☆最高!)