Walter Smith III(Ts)
Ambrose Akinmusire(Tp)
Aaron Goldberg(P)
Matt Brewer(B)
Marcus Gilmore(Ds)
Rec. July 11, 2008, Live at Sunside, Paris
(Space Time Records BG2929)

ウォルター・スミスIIIのリーダー作を買うのは、「Walter Smith III/Casually Introducing(06年、別頁あり)」以来。その間にも「Walter Smith III, Mark Small/Bronze(09年)」がリリースされているのだが、これはメンバー的にあまりそそられなくてパスしている。それに引き換え本作の方は先鋭どころが集結しているのですぐに飛びついた。しかもライブ盤なのだから、これは相当期待できそうだね。
メンバーのアンブローズ・アキンムシーレ(?、1982年生まれ)は「Casually Introducing」にも参加しているのだが、私としては「Danny Grissett/Form(09年、別頁あり)」でのプレイが記憶に新しい。アーロン・ゴールドバーグはつい先日「Aaron Goldberg/Home(10年、別頁あり)」をリリースしたばかり。またマット・ブルーワーは知名度が低いながらも、「Greg Osby/Channel Three(05年)」「Lage Lund Quartet/Romantic Latino For Ladies(06年)」「Gonzalo Rubalcaba/Avatar(08年)」(各別頁あり)で耳にしている。最近メキメキと腕前を上げている感のあるマーカス・ギルモアは、その中の「Gonzalo Rubalcaba/Avatar」、あるいは「Nicholas Payton/Into the Blue(08年、別頁あり)」ではいまいちピンとこなかったのだが、それ以降にリリースされた「Gilad Hekselman/Words Unspoken(08年)」「Joe Martin/Not By Chance(09年)」「Vijay Iyer Trio/Historicity(09年)」(各別頁あり)では、私のハートをガッチリと掴んでいる。

スミスIII曲が2曲、アキンムシーレ曲が1曲、ゴールドバーグ曲が1曲、ブルーワー曲(ベースソロ)が1曲、ベニー・ゴルソンの「Stablemates」、サム・リヴァースの「Cyclic Episode」で全7曲。
スミスIIIの現代的でありながらも、テナーの巨匠たちの伝統的なものもきちんと吸収していて、決してメカニカルな感じはしない1曲目の出だしの無伴奏ソロからして実にいい塩梅。さらにメンバーが加わってからのサウンドが60年代のマイルス黄金クインテット風なのもまたいいね。このモーダルで自由度の高い演奏が、メンバー各人の持ち味にもバッチリと嵌っているおかげで、一気にサウンドに引き込まれる。少々粗削りながらも、失敗を恐れることのない吹きっぷりのよさがフィーリングのよさにも繋がっていて、それでいながらマイルス的な陰影のつけ方も絶妙なアキンムシーレといい、自分のアルバムよりもハンコック的なモーダルさとアグレッシブ度が一段と強まっているゴールドバーグといい、1曲目と3曲目のブリッジ的な長尺フリーソロの2曲目では、そのテクニックの確かさと存在感をたっぷりと見せつけてくれるブルーワーといい、ブルーワーと一心同体となりながら1曲目では曲間でのテンポを自由自在に操ったり、場面によってはあえて休んでいる様がトニー・ウィリアムス的で、さらにそのドラミングにもガンガン気合が入っているギルモアといい、どんな場面にも動じることなくリーダーとしての資質を充分に見せつけてくれるスミスIIIといい(「Walter Smith III/Casually Introducing」ではソプラノも吹いていて、そのあっさりとしたフレーズがいまいち気に入らなかったのだが、本作ではテナー一本に絞っているのがなにより)、とにかくメンバー全員が最高の仕事をしているね。また決して大衆受けしないような楽曲群(中には1曲目のように、途中でフリーな展開を見せる曲もあり)を、ライブで平然とやってのけているというのも彼らの自信の表れだろう。それでいながら演奏自体は頭でっかちな、というか独りよがりな感じが全くしないのだから大したもの。変に16ビート的な演奏をかますことなく、ちゃんと4ビートで勝負しているのも潔い。
ということで私としては非常に気に入っていて、トータル77分がそんなに長く感じないのも、良いライブを生で観ているときの感覚と一致する。ただし全体的にモード色が強すぎるので、そんな意味では聴く人を選んでしまうかも。単なる2管編成のハードバピッシュな演奏とはわけが違うからね。その代りこっち傾向が好きな人にとってはたまらないだろう。ライブ盤でありながらも、各楽器の音質やバランスが申し分がない録音も上々だね。

評価☆☆☆☆ (☆最悪!、☆☆悪い、☆☆☆普通、☆☆☆☆良い、☆☆☆☆☆最高!)