Kit Downes(P)
Calum Gourlay(B)
James Maddren(Ds)
Rec. 2009?,Manchester (Basho Records SRCD31)

イギリスのジャズ事情には疎いこともあり、メンバー全員が知らない人。キット・ダウンズのサイトを見ると本作が初リーダー・アルバムのようだ。ダウンズは本トリオの他に、ギター入りのTroykaというバンドやサックス入りのThe Golden Age of Steamというバンドにも参加しているのだが、そちらの方ではキーボードやオルガンを弾いていることからして、どうやらアコピ一本で勝負する人ではないような感じ。きっとそれだけ幅広い音楽性を身につけているということなのだろう。ベースのカラム・グーレイ(?、1986年生まれ)は有名どころではシーマス・ブレイクやトミー・スミスと共演歴があるよう。またドラムスのジェームス・マッドレンはイギリスのジャズ界で引っ張りだこの存在だそうで、アルバムとしては「Ivo Neame/Caught in the Light of Day」や「Jake Goss's Banyan/Looking Up」に参加しているのが見つかった。はたしてこの未知のメンバーで、いったいどんなことをやっているのかが楽しみだ。

ダウンズ曲が7曲とグーレイ曲が1曲で全8曲。
非4ビートが中心の、いかにもヨーロッパのピアノトリオらしいサウンドが展開されている。クラシック的な要素も強い方。その関係もあってか私の耳には無機質に響いてくるのだが、これはこれで悪くはない。1曲目や4曲目での、中盤からのフリーな方向に行っているぶち切れぶりも大したものだしね。盛り上がりの部分では指がコロコロとよく動く。こうして聴いてみると確かに販売店のレビューに書いてあるように、メルドーやキースの影響を感じなくもない。あとはヘルゲ・リエンとかね。どちらかというと北欧のピアニストに近いような気がする。演奏の特徴としてはダイナミックレンジがとても大きいこと。静かな曲かと思って聴いていると、途中から曲調がコロリと変わってガツンとくるのが良くもあり悪くもあるって感じ。そのせいでなんとなく主題がハッキリしない掴みどころのない演奏となっている。まあ私としては一本調子な演奏で終わってしまうよりは、こちらの方が起伏があって面白いけどね。
共演者ではダウンズと同化しているマッドレンが素晴らしい。掴みどころのない楽曲群でよくもこれだけのドラミングができるものだと感心するね。きっとよほど感性が鋭いのだろう。タイプは全く違うけど、ある意味ディジョネットに近いものがある。となるとベースはピーコックといきたいところなのだが、確かにグーレイのベースラインを聴いているとそのような印象も受ける。協調性のあるいいベーシストではあるが、ソロに関してはもっと自己主張があってもよかったと思う。
楽曲としては4ビート基調の6曲目と8曲目が特に気に入った。あとはドラムスで始まってドラムスで終わる7曲目とかね。要は後半の3曲ってことだけど、できればこういうのをメインにしてくれた方が、私としてはもっと音楽に没頭できたと思う。でもトリオとしてはなかなか個性的だし、やっていること自体にも共感が持てる。また演奏によくマッチした録音も優秀だし、一目見ると忘れられないジャケット・デザインも素晴らしい。

評価☆☆☆ (☆最悪!、☆☆悪い、☆☆☆普通、☆☆☆☆良い、☆☆☆☆☆最高!)