Joe Lovano(Ts,Straight As,Alto-Cl,Aulochrome,Gongs)
James Weidman(P)
Esperanza Spalding(B)
Otis Brown III(Ds,Ankle Bells,Opera Gongs)
Francisco Mela(Ds,Pandero,Dumbek,Ethiopian Drums,Ankle Bells)
Rec. November 18-19,2008,NY (Blue Note 3915282)

ジョー・ロヴァーノが新たに結成したバンド「Us Five」によるレコーディング。わたし的には馴染みの薄いメンバーなのだが、ジェームス・ウェイドマンはアーチー・シェップ、スティーブ・コールマン、グレッグ・オズビーらと共演歴のあるピアニストのようだ。自己ブログで検索したら、ロヴァーノとはすでに「Joe Lovano/Streams of Expression(別頁あり)」で一緒にやっていた。ベースのエスペランツァ・スポルディング(1984年生まれ)は昨年リリースされた2枚目のリーダー作「Esperanza Spalding/Esperanza」で一躍有名になった若手の女性ベーシスト。弾きながら歌うってことで私は敬遠したけれど、はたしてベースの実力はいかほどなのか興味深いものがある。ドラマーのオーティス・ブラウンIIIは「Baptiste Trotignon/Share(別頁あり)」で、エリック・ハーランドと比べても遜色のないドラミングをしていたのが記憶に新しい。この人は「Esperanza」にも凄腕ドラマーのオラシオ・エルナンデスと一緒に参加しているんだね。もう一人のキューバ出身のドラマー、フランシスコ・メラもなかなかのやり手のようで、リーダー作は「Francisco Mela/Mela(06年)」「Francisco Mela/Cirio(08年)」の2枚がリリースされている。こちらの方はスポルディングのファースト「Esperanza Spaldin/Junjo(06年)」に参加していることからして、どうやら本作のメンバーはウェイドマンを除いてはスポルディング絡みのようだね。ちなみにメラは、今年の1月にケニー・バロン・トリオ(ベースは北川潔)で来日している。

全9曲がロヴァーノのオリジナル。
ツインドラムということで、どちらのchが誰なのかが気になるのだが、2人ともタイプがよく似ているのでいい当てるのが非常に難しい。私の予想としては左chがフランシスコ・メラ、右chがオーティス・ブラウンIIIなんだけど、もし間違っていれば赤っ恥をかいてしまうので、改めてブラウンIIIが叩いている上記トロティニョン盤や、さらには「Laurent Coq Trio/Spinnin'(別頁あり)」までも引っ張り出して聴いてみたけれど、ますます分からなくなってしまった。なんて思っていたら、6曲目でクレジットに記載されているパンデイロ等の音が左chから聞こえてきて、こちらがメラだということが簡単に判明するじゃないっすか(苦笑)。
そんな2人のドラマーが同時に叩いていたり、何小節かごとに交代で叩いていたりするのだが(ビートは全曲が4ビート)、その躍動的かつアグレッシブなドラムミングに乗っかって、ロヴァーノは普段よりも力の入ったプレイをしている。独特なウネウネ感を醸しながらも、ある時は朗々と、ある時は生真面目に、またある時はユーモラスにと、曲調や場面に応じて縦横無尽に吹きまっくているのだが、7曲目では多重録音なのか、まるでローランド・カークのごとくの1人サックス・アンサンブルで突拍子もない音使いをしていたりして実にユニークだね。ジェームス・ウェイドマンは個性的なロヴァーノと2人のドラマーの間に挟まれて、あまり目立たないような感じ。アドリブは短めだし、ピアノレスになっている場面も多いね。でも的確なバッキングや曲によってのフリー的なプレイ等、ロヴァーノの意図をよく汲んでいるのではないかと思う。期待のベーシストのエスペランツァ・スポルディングは、女性ということでさすがにパワー感こそはないものの、このある意味難解なサウンドに一人取り残されないようにとよく喰らいついているのがいいんじゃないかな。4曲目ではリズムは少々不明瞭ながらもテンションの高いベースソロを披露していて、今はまだ「女性としてはなかなかやるね」ぐらいの印象だけど、これから先どれだけ上達していくのかが楽しみだ。
ツインドラムということからも分かるように、ロヴァーノのリーダー作としてはなかなかアグレッシブな作品に仕上がっている。同じツインドラムものでも比較的スマートにまとまっている「Joshua Redman/Compass(別頁あり)」と比較すると、ピアノ入りとはいえこちらの方はいささかバタ臭い感じなので、聴く人を選んでしまうかもしれない。それ以前の問題で、ロヴァーノ自体が人気者のわりには吹き方の癖が強いので、けっこう敬遠している人も多いしね。私としては大いに気に入っていて、ロヴァーノの近作としては最高傑作だと思っている。

評価☆☆☆☆ (☆最悪!、☆☆悪い、☆☆☆普通、☆☆☆☆良い、☆☆☆☆☆最高!)

<追記>7曲目は多重録音ではなく、Aulochromeというソプラノを2本くっつけたような楽器を吹いているとのこと。crissさん、教えていただきありがとうございました。