10~20代の頃は若くて血の気が多かったせいか、正直言ってフィリー・ジョー・ジョーンズ(1923年生まれ~1985年没)の良さはよく分からなかった。あまりにもドラミングが保守的すぎるというかなんというか、超個性的なエルビンやトニーを好んで聴いていた耳からするとちょっと古臭く感じたんだよね。これには当時は50年代のジャズよりも、60年代のジャズの方を好んで聴いていたことも大きく関係している。
ところが30代に入ってからはいくぶん丸くなったおかげで、50年代のジャズもしっくりとくるようになった(40年代はいまだに駄目だけど)。特にマイルスに関しては60年代こそが最高だと思っていたのが、50年代のマイルスも味わい深くて実によくて、当時のレギュラー・メンバーだったフィリー・ジョーも、よく聴くと滅茶苦茶カッコいいじゃないっすか。なんか大人の味をようやく覚えたって感じだったな。
我々アマチュアがセッションをする場合には、スタンダード・ナンバーを「せーの」的に演奏することがほとんどなんだけど、そんなときはエルビンやトニーのような叩き方だと自分だけが一人浮いてしまう。やはりフィリーのようなオーソドックスなドラミングが一番よく似合うってことで当時は必死になってコピーしたけれど、何せ10代や20代のなんでも吸収できた頃とは違って物覚えが悪くなったせいか、真似しようと思ってもなかなかできなかったんだよね。結局は途中で挫折してしまったです(苦笑)。
そんな私が言うものなんだけど、フィリーを本格的にコピーしようと思ったら、まずはルーディメントをきちんと習得する必要があるだろう。一見オーソドックスで解りやすいフレーズであっても、技術的にはかなり高度だからね。ダブル・ストローク(2つ打ち)系でも、3つ打ちや4つ打ちの普段使わないようなものまでマスターしなければならないし、パラディドルや装飾系のフラム、ドラッグなんかももちろんだ。まあ世の中のジャズ・ドラマーは基本的にはみんなそうなんだけど、単なるシングル・ストロークだけでは通用しないということを肝に銘じておいた方がいいだろうな。それを踏まえた上でフィリーを分析すると、ルーディメンツに裏打ちされた論理的なドラミングを構築しているのがよく分かる。またなにげにトリッキーなプレイをすることも好きと見えて、例えば「チーン・チッキ、チーン・チッキ」というシンバル・レガートを刻みながら、スネアで「タタ、タタ、タタ、タタ」という全く弾まない均等な8分音符のオカズを入れる芸当など、聴く限りにおいてはどうってことがないフレーズだと思っていても、いざ自分で叩くとなるとそうそう簡単には出来るものではなかったりする。フィリーは決して無茶苦茶な(適当な)叩き方をしないこともあり、フレーズは誤魔化しがなくて明快そのもの。4ビートのドラミングでこれだけカッチリと決まっている人もそうそういるものではない。それでいながらジャズのフィーリングがたっぷりなのだから素晴らしい。ドラムソロにおける3連符と16分音符の効果的な使い分けが非常に上手いし、どんなアップテンポの曲であっても危うさが全くないのも絶品。欠点はあまりにも端正すぎることかな。でもそれがドラミングの解りやすさに繋がっているのだから仕方がないだろう。
そんなフィリーのドラミングをさらに発展させて、現代に受け継いでいる代表格がルイス・ナッシュやケニー・ワシントンなのだが、ジャズドラムを勉強しようと思ったら、こういうお手本的な定番スタイルから入るのが一番の近道のような気がする。