ジャズ・ドラミングへの入り口はバディ・リッチだったのだが、最も影響を受けたドラマーといえば、やはりエルビン・ジョーンズとトニー・ウィリアムスの両名に尽きる。この二人は超個性的なドラミングによって、それまで培われてきた伝統的なスタイルを根底から覆したジャズ・ドラミングの開拓者。私にとっては神様的な存在だね。というわけでまずはエルビンから行ってみよう。
エルビン・ジョーンズ(1927年生まれ~2004年没)の最大の特徴はなんといっても「うねり」でしょうな。あまりにもうねりすぎて時たまタイムが狂ってしまうこともあったりするのだが、そんなことは音楽の大きな流れからするとさほどの問題ではない。まあ共演者(特にベーシスト)にしてみれば、いちいちタイミングを合わせるのに大変だったろうとは思うけどね(苦笑)。ドラミングがまるで地中のマグマのように、あるいは日本海の荒波のように脈動している様には、とてつもない生命力や躍動感といったものを感じる。
そんなエルビンなんだけど、やはりジョン・コルトレーン抜きでは語れない、というかコルトレーンのサウンドだったからこそあのようにダイナミックなドラミングができたわけで、もしもエルビンがコルトレーンとやっていなければ、ドラミングのスタイルは単にオーソドックスなものに毛が生えた程度で終わっていた可能性も考えられる。彼のドラム・スタイルは後年のドラマーたちに大きな影響を与えているのだが、そんな意味ではコルトレーンがいたからこそ現在のドラム・スタイル(ジャズだけではなくロック等を含んだ広範囲での)が確立されているといっても決して過言ではないだろう。
ポリリズム(複合リズム)という音楽用語は、まさにエルビンのためにある言葉。彼のドラミングはポリリズムの塊だからね。ポリリズムの意味が分からない人のために簡単に説明するけれど、例えば4/4拍子の曲に3拍子(3拍フレーズ)をぶち込んでみたり、3/4拍子の曲を1拍半ノリの6/8拍子にしてみたり、3連符系のリズム(いわゆる4ビートやシャッフル)に8分音符や16分音符といったハズまないリズムを取り込んだりと例を挙げるとキリがないのだが、その名の通りにリズムが複合しながら同時進行することをいう(もし違っていたら御免なさいね)。その組み合わせは無限大にあるといっていいのだが、古くはアフリカあたりのリズムを強調したような民族音楽が起源だったようだね。このようにリズム(ビート)が細分化されたことにより、ジャズはより高度な音楽へと発展しているので、そんな意味でもエルビンの功績はとても大きい。
エルビンのフレーズをコピーしようと思ったら、まずはバスドラを絡めた3連符の練習から始める必要があるだろう。「タタド、タタド」をいかに速く叩けるか。ちょっと慣れてきたら「タドタ、タドタ」とか、バスドラを入れる場所を変えてみるとかね。それが出来たら今度は「タタドド、タタドド」といったバスドラの2発打ちに挑戦だ。あとはそれらをポリリズムで拍的にずらしてみるとかね。これさえマスターすれば気分はもうほとんどエルビンで、これらのヘビーなフレーズはフィルインであろうがドラムソロであろうが、どんな場面にでも応用できる。スティーブ・ガッドがドラムソロの後半でやってお客さんが盛り上がるのも大抵このバスドラ絡みの3連符フレーズ(正確には6連符フレーズ)だし、ロックの方ではジョン・ボーナムなんかも好んで取り入れていたっけな。
あとエルビンの特徴としてはシンバル・レガートに有機的なアクセントを付けていること。さらには「チーン・チッキ、チーン・チッキ」だけではなく、「チッキ・チーン」とかと、リズム自体もその場に応じて(主にスネアを入れるタイミングとかで)刻々と変化する。トニーなんかもそうだけど、この辺がそれまでのドラマーとは根本的に違っていたね。
コルトレーンが亡くなってからもその魂を継承し続けたエルビンだけど、個人的には20年ほど前に秋田市のキャットウォークで行われたドラム・クリニック的なソロ・ライブが、生で観たエルビンの最初で最後だった。ドラムセットの真ん前でかぶりつきで観ていたのだが、そのパワフルかつ野性的なドラミングにはただただ圧倒されるばかりで、もうあんぐりとあいた口が塞がらなかったね。実際にドラムの神様を目の前にして、しばらくの間は興奮が冷めやらなかったです。