Kei Akagi(P,Rhodes)
Tomokazu Sugimoto(B)
Tamaya Honda(Ds)
Rec. August 15-18,2007,Tokyo (VideoArts Music VACT0001)

ケイ赤城は普段はアメリカに住んでいてカリフォルニア大学アーバイン校で教鞭に立っているのだが、夏休みや冬休みを利用して日本に帰ってきてはライブ・ツアーやレコーディングを行なっているようだ。2005年夏のツアーでは本作と同じメンバーに峰厚介を加えてすぐ近くの弘前市にもやって来たのが記憶に新しい(ライブレポートあり)。ケイ赤城個人としてはそれより前の2000年に我が大館市にも鈴木良雄、村上寛といった面々で来ているが、その時は前売チケットを買ったものの仕事の都合で残念ながら見逃している。
このトリオとしては前作の2枚組みライブ盤「Kei Akagi Trio/Live-Shapes in Time(別頁あり)」で、もうやりたいことは全てやり尽してしまった感があるのだが、本作ではエレピもクレジットされているんだね。もしかするとそれによって新たな活路を見出そうとしているのかもしれないな。

オリジナルを中心に全8曲。
ヨーロッパのピアノトリオ的なリリカルな曲調でスタートするのだが、2曲目もまた同じような曲調となっている。どちらの曲も単体ではとてもいいのだが、続けて演奏するというのはアルバムの構成としてはいかがなものだろう。こういう曲には付きもののベースソロがどちらか1曲であってもよかったと思うしね。3曲目はサンバ調。ケイ赤城は途中からエレピを弾いているのだが、アドリブ・フレーズが目茶苦茶カッコいい。この部分はチックの第一期RTFをイメージしていただくと分かりやすいと思うけど、今までアコースティックが主体だったこのトリオとしては聴いたことがなかった一面だけに実に新鮮に聴こえる。4曲目は「Blue in Green」。ゆったりと弾いているケイと杉本智和とは裏腹に、同時進行でフリーフォームでハイスピードな本田珠也のドラミング(手数が非常に多い)が対照的で、これは実に素晴らしいアイデアだね。今までいろんな人の「Blue in Green」を聴いてきたけれど、ここまでスリリングなやつは聴いたことがないような気がする。5曲目は最初こそはバスドラの4つ打ちだけど、ビートは基本的にはセカンドラインの発展形といってもいいだろう。ここにきて初めて杉本のアルコでのアドリブが登場する。楽曲としては曲調がコロコロと変わっていく様がとにかくカッコいい。途中から弾いているエレピでの部分のどことなく混沌としている感じは、かつてのボスだったマイルスの70年代前後のサウンドを連想するね。幾何学的なリフなんかもあったりして、この曲はほんとカッコいいですわ。6曲目の前半は静寂感がなんともたまらないのだが、現代音楽のパーカッション・ソロ的な本田のアプローチが素晴らしい。中盤で杉本がベースラインを打ち出しているうちに本田も次第に寄り添ってきて強力なビートに発展するけれど、その2人を突き放すかのようにあえて手数を少なくして、ダークでモーダルな雰囲気で弾いているケイ赤城にはある種の凄みすら感じる。7曲目はテーマのキメがとても複雑。アドリブに入ってからは曲調が一転し、テンポチェンジでゆったりとした4ビートになるのだが、次第にテンポ・アップしていって高速の4ビートに突入し、頂点でちょっとフリーっぽくなった後にはまたテンポ・ダウンしていくけれど、3人の息がピッタリと合っていて素晴らしいですなぁ。ラストの8曲目は心洗われる曲調。前半部分でのフリーっぽく叩いていながらもキッチリとテンポに合っている自由度の高い本田のドラミングがカッコいい。
1、2曲目が同じような曲調だったので一時はどうなることかと思ったけれど、3曲目からの流れはとてもいいね。さすがにケイ赤城トリオだけあって、同じ日本人のピアノトリオでも他の人たちとはやっていることが一味も二味も違う。前作のライブ盤でもう音楽的に限界かと思ったけど、エレピ効果もあったりして決してそんなことはなかったです。
国内録音ものとしては録音も上々で、特にリリカルな曲でのジョーイ・バロンのバスドラ並にズドーンと低域側に沈み込むバスドラが超気持ちいい。
本作は限りなく5つ星に近い4つ星。くどいようだけど1、2曲目の流れに工夫が施されていれば文句なしに満点だったです。

評価☆☆☆☆ (☆最悪!、☆☆悪い、☆☆☆普通、☆☆☆☆良い、☆☆☆☆☆最高!)