山中千尋(P,Key)
Vicente Archer(B)
Kendrick Scott(Ds)
Rec. May 22-24,NYC (Verve UCCJ2060)

山中千尋のヴァーブ移籍第三弾。1作目のメンバーはロバート・ハースト、ジェフ・ワッツ、2作目はラリー・グレナディア、ジェフ・バラードときて、今回はビセンテ・アーチャー、ケンドリック・スコットなのだが、もしかするとアルバムごとにメンバーを代えるのがコンセプトの一つとなっているのだろうか?それともレコーディングが終了した時点である程度の達成感があって(悔いもあるだろうが)、次はまた一つステップアップしたいという気持ちが山中自身にあるのかもしれない。その場合はメンバーを代えるのが一番手っ取り早いからな。
今までのメンバーと比べるとアーチャーとスコットは小者的に感じている方もおられるだろうが、私からみれば決してそんなことはない。二人ともそうとうな実力の持ち主で、その辺のところは当ブログでも何度も取り上げている。興味のある方は各人の名前を「サーチ」欄に入力(カタカナでも英語でもオーケー)して、検索してみてください。それにしても最近の二人の活躍ぶりは凄まじいものがある。特にスコットはクルセイダーズの一員としてファンク系の16ビートを叩いていた時とは別人のように、4ビートの諸作品ではガンガン攻めまくっておりますぞ。まあ、リーダー作「Kendrick Scott Oracle/The Source(別頁あり)」のドラミングだけはイマイチだったけどね(苦笑)。

山中の4曲のオリジナル(うち1曲は3人の共作)と、ジャレット、コルトレーン、エリントン曲等で全10曲。
ジャレット作のボッサ系の曲からスタート。山中のリズムの甘さ(タイミングが遅れ気味)が少々気になるものの、出だしは上々だ。2曲目ではなんとエレピを弾いているじゃないっすか。こんなエレクトリックな山中は、なんか今まで聴いたことがないような気がするけどそんなに悪くはない。というか、むしろアドリブは1曲目よりもいい感じだね。3曲目の「シング・シング・シング」。おいおい、イントロがもろシカゴの「サタディ・イン・ザ・パーク」じゃないっすか(笑)。テーマ部はコロッと変わって7/8拍子。ピアノとシンセを同時に弾いている。その後はちょっとした4ビートになったり、半テンの16ビートになったりする。これはなかなかの大作ですな。アドリブの後半はシンセでギター風な音色&フレーズで弾いていたりするけど、もしかすると上原ひろみをかなり意識しているのかもしれない。別に自分は自分でいいと思うけどな。まあわたし的にはこんなプログレッシブな演奏は大好きだけどね。4曲目はオーソドックスな4ビート・ジャズしとりますなぁ。「クレオパトラの夢」に似た曲調がらか、なんとなくバド・パウエルを連想する。それにしても3曲目とはサウンドがえらい違うよね。何かのコンピレーション・アルバムを聴いているような錯覚に陥る。5曲目は4ビート・バラード。もちろん4曲目とは連続性がある。アルバムの曲の配列からいってもここは一休みしたいところだったので、バラードを持ってきたのは正解でしょうな。6曲目はエレピが最登場。「ジャイアント・ステップス」を6/8拍子で演っているのだが、途中からアコピに代えて、ビートも4/4拍子にチェンジするまではこの曲だとは気づかない。なかなかいいアイデアだね。7曲目はまたアコースティックなサウンドに戻る。6/8拍子のブルースを、途中から6/8拍子を2拍3連に見立てた4/4拍子にチェンジさせて、しかもコード進行まで8小節進行に変化させるのは、6曲目と同様に素晴らしいアイデア。後半は倍テンにしてグイグイと突き進むのだが、この部分のスピード感がなんともたまらないねぇ。8曲目はなんとなく中東風。ワンコードを発展させていくという、昔ジャレットがよくやっていた手法を取り入れている。中間部からはアコピにリバーブかなんかをかけたりして、音的にもけっこう遊んでいる。途中からの盛り上がり方がなかなかいい感じだね。9曲目は細かい16ビートによる即興的な演奏。アコピのバックで聴こえるシンセの単音による持続音が不気味ですな。10曲目はオルガン的な演奏。同じ日本人女性のオルガン奏者である大高清美のプレイを連想する。
と感じたままに書いてみたけど、作品としてはかなり「ごった煮」的で、アルバムとしての統一感はイマイチ。こうなると山中が本当にやりたかった部分はどこなのだろうと勘ぐりたくなるのだが、きっとあれもこれもやってみたかったという単純な動機なのだろう。でもサウンド自体はそんなに悪くはない。それには16ビートにも4ビートにも十分に対応できているスコットのドラミングも大きく貢献しているね。

評価☆☆☆☆ (☆最悪!、☆☆悪い、☆☆☆普通、☆☆☆☆良い、☆☆☆☆☆最高!)