Steve Smith(Ds,Key)
Tom Coster(Key,Accordion)
Baron Browne(B)
Vinny Valentino(G)
Guests. Bill Ebans(Ts,Ss)、Pete Lockett(Tabla,Kanjira,Konnakol,Per)、Gilad(Congas,Per)、Juan Carlos Melian(Congas,Per)
Rec.December 5-15,2006 CA (Hudson Music HDCD101)

ヴァイタル・インフォメーションは、元ジャーニーのスティーブ・スミスが20年以上もライフワークにしているバンド。ファーストアルバムの「Vital Information(83年)」とセカンドの「Orion(84年)」は、私が持っているやつなんかはLPだってんだから、どれだけ長く活動しているのかがよく分かる。
結成当初のメンバーは、スミスとは高校時代からの仲間だったというデイブ・ウィルクゼウスキー(Ts)とティム・ランダース、それにビリー・コブハム・バンド出身のディーン・ブラウンと、その前任者でマイルスのバンドでもお馴染みのマイク・スターンだった。2作目ではスターンが抜けてEef Albers(G)が参加。3作目「Global Beat(87年)」はゲストがいっぱい入っているが、ここで初めて元サンタナのトム・コスターが加入している。4作目「Fiafiaga(88年)」もゲスト攻勢だが、ディーン・ブラウンとティム・ランダースが抜けてフランク・ギャンバレとカイ・エクハルトが加入。5作目「Vitalive!(90年)」ではエクハルトが抜けて、なんとラリー・グレナディアがウッドで参加している。とメンバーの移り変わりを書いてもキリがないのでやめておくが、中期以降はスミス、ギャンバレ、コスター、ジェフ・アンドリュース(後にバロン・ブラウンと交代)といったメンバー構成で、「Easier Done Than Said(92年)」「Ray Of Hope(96年)」「Where We Come From(98年)」「Live Around The World: Where We Come From Tour '98-'99(00年)」「Live From Mars (01年、bootleg) 」「Show 'Em Where You Live(01年)」「Come On In(04年)」と、今までに12枚のアルバムをリリースしている。本作ではギャンバレが抜けて、新たにベンソン系のヴィニー・ヴァレンチノが参加しているね。
スコット・ヘンダーソンがチック・コリアのエレクトリックバンドを脱退して結成したトライバルティック(ヴァイタルインフォよりは少し後発だった)とはいい意味でのライバル関係にあったのだが、こちらの方はもう解散してしまったような感じ。ちなみにスミスとヘンダーソンはジェフ・バーリンの「Champion(86年)」で一緒だったし、近年では驚異のベーシストのヴィクター・ウッテンと3人で、ヴァイタル・テック・トーンズという三者のバンド名を掛け合わせたバンドで、「Vital Tech Tones (98年)」と「Vital Tech Tones Vol2(00年)」の2枚をリリースしている。
他のスミスの活動としては、ピーター・アースキンの後釜として一時期加入していたステップス・アヘッドでの活躍は誰でも知っているところだろう。(今年の来日公演でも復帰している)ヴァイタル以外の近作としては、おそらくデイブ・リーブマンとは初共演の「Smith,Liebman,Esen,Jackson/Flashpoint(別頁あり)」がある。あと彼はドラム指導者としての一面も持っていて、最も敬愛していると思われるバディ・リッチから盗んだテクニックを、多くの若者たちに伝授している。
とちょっと前置きが長くなってしまったけど、ヴァイタルの中期の作品はほとんど持っていない(輸入盤でしかリリースされなかったので)自分のための備忘録です。もっと詳しいことを知りたい方はWikipediaの記事でどうぞ。
http://en.wikipedia.org/wiki/Vital_Information

バンドのメンバーのオリジナル(共作含む)とジミー・スミスの1曲で全12曲。
ファンク・ビートに乗せながら、口タブラ(専門用語ではKonnakolというようだ)で最後までメロディを取っている1曲目がまず意表をつく。口タブラはザキール・フセインとよくやっているジョン・マクラフリンの得意技なんだけど、本作ではゲストで参加しているタブラ奏者のピート・ロケットと一緒にスティーブ・スミスもユニゾンしているようだ。途中からはその複雑なフレーズにドラムのタム回しなんかも絡んできて、えらいカッコいいねぇ。2曲目は爽やか系のフュージョンって感じ。もちろん軟弱なものではなく、ユニゾンでビシバシ決まるキメが当然のようにあるけれど、ギターがギャンバレからヴァレンチノに代わっているので、その分サウンドの肌触りがよくなっているね。おっ、3曲目にはビル・エバンスが入ってますな。ここでのヴァレンチノのアドリブはいかにもジャズギターって感じで実にいい。続くトム・コスターもノリノリに弾いているし、エバンスもそこそこぶち切れているね。4曲目はアップテンポな4ビートのブルース。途中で半テンにしながらの現代的でスマートな演奏。5曲目は4/4+15/16拍子の変拍子だけど、16分音符が1個足りないだけなので分かりやすい。サビはまた違うけどね。ここでのスミスのドラムソロはメチャクチャかっこいいっす。6曲目ではまた口タブラが登場する。採譜して自分でもユニゾろうかなぁ(笑)。7曲目はゆったりした16ビートと倍テンの16ビートの複合。まあよくあるパターンの曲ですな。バロン・ブラウンがきっとフレットレスだと思うけど、ここにきてなかなか味わいのあるベースソロを披露しているね。8曲目はマイルスのジャン・ピエールに似た感じのファンキーな曲。9曲目はスネアのアクセントが少しトリッキーだけど、メロディをよく聴いていれば拍取りは簡単だと思う。こんなちょっとした工夫で曲ってどうにでもカッコよくなるんだなぁ。大いに見習いたい。10曲目はまたアップテンポの4ビート。トニー・ウイリアムスのライフタイムでも意識しているのか、けっこうそれっぽい感じだね。ヴァレンチノもマクラフリン風(といっても最近のだけど)に弾いているし。途中からは半テンの16ビートにしているけど、ここの部分ではブラウンのチョッパーが楽しめる。今はもうチョッパーは時代遅れだけど、こういうふうにごくタマにやるのだったら大歓迎だよね。11曲目はジミー・スミスのブルージーな曲。コスターがそれ風なオルガニストになりきって弾いているし、続くヴァレンチノもまた然り。スミスのザクザクしたシンプルなドラミングが、この曲にはよく合っている。ラストの12曲目は、ギターのイントロの最初の数音がもろベンソンの「ブリージン」に入ってた曲ですな(笑)。ギターとコスターが弾いているアコーディオンのデュオからスタートする4ビートのバラード曲。締めをこんな感じでしっとりとやるってのも乙なもんです。
さすがにスミスのリーダー・アルバムだけあって、ほとんどの曲の後半はちゃんと彼のドラムソロが用意されているね。決して機械的ではなく人間味に溢れているドラミングは、私たちのようなアナログ世代の人間にはピッタリとフィットするし、フレーズが比較的分かりやすいので、これぐらいだったらちょっと練習すれば叩けるかななんて思わせておいて、その実かなり高度なことをやっているのが凄いっす。
こんなに長く活動しているバンドはなかなかないので、奮発して最高点を挙げちゃいます。

評価☆☆☆☆☆ (☆最悪!、☆☆悪い、☆☆☆普通、☆☆☆☆良い、☆☆☆☆☆最高!)