Ryan Kisor(Tp)
Grant Stewart(Ts)
Peter Zak(P)
John Webber(B)
Jason Brown(Ds)

去年ジャズフェスで見たのとほぼ同じメンバー(ピアノはサム・ヤヘルだった)によるライアン・カイザーの最新盤。
生存しているトランペッターで私が一番好きなのはウィントン・マルサリスで、これはもう別格。で次あたりがライアンかな。彼のペットは緻密な中にも程よく遊びがあってとても大らかに聞こえる。こういう開放感のある人って近頃少なくなってきたんじゃないかな。ライアン以外の最近の若手は妙に生真面目でこじんまりとしていて「華」がないようにいつも感じているだよね。
フロントでコンビを組んでいるグラント・スチュワートは簡単に言えばエリック・アレキサンダー・タイプ。目指しているものが同じなんだろうね。ただ、フレーズ的にはエリックほどは細かくないかな。引き出しも少ないし。でも程よい「ゆるさ」がライアンとの相性を良くしている。
本作では1曲目にジェイソン・ブラウンのドラムがトニー・ウイリアムス化していてちょっとビックリ。あれ、こんな人だっけ?と思いながら聴いていたら2曲目からは去年見た通りのドラミングに戻っちゃった。1曲目の路線で全部やればVSOPのようで面白かったのになぁ。

まあ、どうってことのないバップ風なアルバムなのであれこれ書くこともないけれど、いちばん飽きが来ないのがこういうタイプの演奏ではないかな。私は好きです。

このCDでの儲けものは芯がシッカリとしたジャズ的な録音。エンジニアはジェームス・ファーバーだが、彼にしては珍しく音の上下をカットして、あえて中域主体の50年代あたりのサウンドに仕上げている。おかげで、全ての楽器が図太く迫ってきているね。ボリュームを上げても決して耳に刺さるようなことはないだろう。

ライナーノーツでは寺島靖国さんが相変わらずの「演奏ではなく曲を聴け」的なジャズ論を説法している。まずは曲ありきの人だからね。
私のように、まずは演奏ありき(ミュージシャンありき)で曲は単なる題材に過ぎないと思っている人間にとっては痛い所を衝かれている。そもそも曲名自体スタンダードでもほとんど覚えていないからね。(曲そのものは知っているが)
でも、どんな演奏をするのも自由、どんな聴き方をするのも自由というのがジャズの素晴らしいところだと思うんですが。それと聴きたくないものは聴かなきゃいいわけだし。
言っていることはよく分かるのだが、自分の意見を一方的に人に押し付けるようなものの言い方をしたって誰も相手にしてくれないんじゃないかなぁ。(まあ私にもそんなところがあるかもしれないが)
尊敬している寺島先生のことながらも「また始まったな」という気分です。